「あああ、あの。お、お昼、お昼ご飯食べようよっ。あのさ、あそこのパスタ、美味しいんだよっ」

 焦って深成が、少し先のイタリアンの店を指差す。
 だがこの空気では、とても楽しいランチにはならないだろう。
 困っていると、いきなり改札口から明るい声がした。

「あら〜真砂様ぁ〜。帰ってきて早々に真砂様に会えるなんて、運命としか思えませんわぁ〜」

 高いヒールで危なげもなく、軽い足取りで駆けてくるのは千代だ。
 どうやらジムの朝メニューに行っていたらしい。
 ジムなのにヒールで行くのは、さすがである。

「あっ! ち、千代っ! ねぇ、皆でお昼食べに行かない?」

 助かった、と深成は千代にすがり付いた。
 千代も真砂がいれば文句はない。

「いいね。真砂様、行きましょう。……あら?」

 今の今まで真砂しか見ていなかった千代の目が、ようやく六郎を捉えた。
 千代と目が合った途端、六郎は驚いたように目を見開いた。

 無理もない。
 ジム帰りだけに、少し乱れた髪は返って色っぽいし、着ているものは普通だが、シャツは胸元がざっくり開いている。
 履いているのは、ホットパンツかと思うほどのショートパンツだ。
 そこから細い足が、すらりと伸びている。

 その辺りの道行く男どもが、軒並み釘付けになるほどの色気を醸し出しているのだ。
 目のやり場に困り、六郎は少し顔を赤らめて、不自然に視線をさまよわせた。

「この人が、昨日言った人だよ。六郎っていうの」

 深成が、六郎を千代に紹介する。
 千代は、ああ、と呟き、じ、と六郎を見た。

 スタイル抜群の美女に見つめられ、六郎はますます赤くなる。
 そんな様子に、面白そうに目を細め、千代は艶やかに微笑んだ。

「千代ですわ。よろしく」

 ずい、と六郎のほうに身を乗り出して言う。
 狙っているのかいないのか、少し前屈みになった千代の胸元に、六郎はまた、困ったように後ずさった。

「んじゃあ行きましょーっ」

 一番協調性の無さそうな真砂の腕を引っ張り、深成はイタリアンの店へと踏み出した。