色恋沙汰には疎い故に、こういう場合の対処法がわからない。
 でも相手が相手なだけに、こういうことに詳しい千代に聞くわけにもいかない。

---ていうか、上司だもの。会社の人には相談出来ないよぅ---

 鼻の下まで湯に沈みながら、ぐるぐる考える。

---あ、でも社内恋愛ってよくあることだし、そういう意味じゃ、わらわ、千代とかあきちゃんとかよりも、狙い目かも---

 正社員同士よりも、社員と派遣のほうが、後々やりやすい。
 関係がまずくなったら、派遣は契約を解除すればいいのだから。

 しかも、深成の命運を握っているのは真砂である。
 いつでも真砂の気持ち一つで、深成などどうにでも出来るわけだ。

---ひいぃ。だ、だから千代には構わないけど、わらわには構うってこと? 遊ぶのに丁度いいとか思われてるのっ?---

 確かに真砂の深成に対する態度は、『遊んでいる』という表現が正しい。
 だがそれは、純粋におもちゃで遊ぶようなもので、男女間の『遊びの付き合い』というものとは程遠いのだが。

 傍から見たら明らかなことでも、生憎深成にはわからない。
 悲しくなり、深成はしくしくと泣きだした。

---か、課長って、遊び人だったんだ……。そうだよね、ハンサムで独身だもの---

 そのような男が遊ぶのに、何もわざわざ見るからにお子様を選ぶはずがないのだが。
 やはり深成の頭では、そこまで到達することは出来ない。

 くすんくすんと泣いていると、脱衣所のドアが、こん、とノックされた。

「おい、出てるか?」

「……ま、まだ」

 慌てて深成が風呂の中から言うと、がらりと脱衣所のドアが引き開けられた。
 浴室のドアの向こうに、真砂の影が映る。

「大丈夫なのか」

 ドアの向こうから、真砂が声をかける。

「何が?」

「やけに長い。気持ち悪くなってるんじゃないのか?」

 どうやらいろいろ考えているうちに、随分時間が経っていたようだ。
 あまりの長さに、心配になったのだろう。

「き、気持ち悪くはないけど……」

 遊ばれている、と思うと、この優しさも悲しくなる。

---そうなんだよ。課長、いっつも冷たいくせに、不意に優しくするんだもん---

 別にこの行動だって、特別優しい行動なわけではない。
 誰だって、酔っ払って寝ていた者が、朝風呂に入ってなかなか出てこなかったら心配するだろう。

「なら良いが……。バスタオルは出しておくからな」

 真砂が言い、がたん、と引き出しを開ける音がした。
 じぃ、と湯に浸かったまま、その影を見ていた深成は、いきなり声を上げて泣き出した。

「うっうわあぁぁぁん!!」

「な、何だ! どうした」

 脱衣所の真砂が、驚いた声を上げて風呂場に近づいた。
 が、さすがに飛び込むわけにもいかない。