朝。
 深成はむくりと起き上った。
 トイレに行こうと立ち上がろうとし、ベッドの高さが違うのに気付く。

「あ……あにゃーっ!!」

 気付いたときにはすでに遅く、深成はベッドから転がり落ちた。

「うう……いたたた……」

 頭を押さえて唸りつつ顔を上げると、己の部屋ではない景色が目に入る。
 ホテルでもない。

「あれ、ここは……」

 自分の家ではないが、見覚えがある。

「ここって……」

 呟きつつ、深成は寝室を出た。
 廊下の先に、リビングがある。
 そろ、とドアを開けると、ソファに真砂が寝ていた。

---やっぱり課長の家……---

 以前にも来たことがある。
 深成はそろそろと、真砂に近づいた。
 じ~っと寝顔を覗き込む。

---うん、ハンサム。寝てると意外に可愛いな---

 真砂のすぐ横にしゃがみ込み、遠慮なくじろじろと観察する。
 と、不意に真砂が手を伸ばした。
 覗き込んでいた深成を、そのまま己の胸に抑え込む。

「ふにゃっ!!」

 いきなり抱きしめられ、深成は思い切り暴れた。
 が、元々不安定な体勢だったため、深成の動きは簡単に封じ込められてしまう。

「起きたのか。何人の顔をじろじろ見てるんだよ」

「だ、だってっ! 課長の寝顔なんて、そうそう見られないもんっ」

 素直に答える。
 そもそも好きでもない者の寝顔など、見たいとも思わないものだが。
 だが当然深成の頭には、そこまでの考えはない。

 わたわたと暴れる深成を抱きしめたまま、真砂は少し上体を起こした。
 このままでいれば、甘やかな雰囲気になったかもしれないのに、ここで深成は、はた、と我に返った。

「あ! ちょっと課長、離して! わらわ、トイレに行きたいんだった」

 ぱ、と真砂の腕が離れる。

「気分が悪いわけじゃないだろうな?」

「違う。おしっこ」

 恥ずかしげもなくそう言い、がくりと肩を落とす真砂にも気付かず、深成は『トイレ借りるね~』と叫びつつ、廊下に走っていった。
 しばらくしてから、すっきりとした表情で戻ってくる。

「ああ、すっきり。そっか、ビールいっぱい飲んだし、最後に千代にお水貰ったし、そりゃトイレにも行きたくなるよね」

「いっぱい? 一杯の間違いだろ」

「ジョッキだったもんっ。あんなに飲んだの初めてだよ~」

 ぶーぶー言う深成の横をすり抜け、真砂は風呂場に向かう。
 程なく、お湯を張る音が聞こえてきた。

「あれ課長。今からお風呂?」

「昨夜入ってないし。シャワーは寒いだろ」

 どうやらお風呂は、深成のためらしい。
 自分の入るのだろうが。

 真砂はその間に、キッチンに行って朝食を作り始めた。