「だったらさっさと終えないと、納会に参加できないぞ」

 ちょい、と運んできたワゴンを指す。
 そこには簡単なオードブルやお菓子、飲み物が山と積まれている。

「そうそう。さぁ皆! さっさと仕事終えやぁ! 納会の始まりやで!!」

 思い出したように叫び、ミラ子社長が皆に紙コップを配っていく。
 そしてシャンパンの栓を、しぱーんと景気よく開けた。

「ささ、どれでも好きなもの取っていきや!」

 フロアの皆が、ワゴンから各々好きなものを取っていく。

「こらこら。まずは乾杯や! 皆、飲み物行き渡ったか?」

 ミラ子社長がシャンパンを入れていく紙コップを、皆がどんどん回していく。
 ビールがいい者は缶ビールを取ったりしているが、ジュースはなさそうだ。
 深成はちょっと離れたところから、ぼんやりその様子を見ていた。

「ほれ、お前の分だ」

 ふとかけられた声に顔を上げれば、真砂がすぐ横に立っている。
 その手には、缶ジュース。

「あ、あれ? こんなんあったの?」

 真砂から缶ジュースを受け取りながら、深成はまたワゴンを見た。

「皆が群がってるから、見えなかっただけかな?」

「折角昼間っから会社で酒が飲めるんだ。ジュースなんかないさ。でもお前は弱いからな。また酔っ払われたら困るし、買っておいた」

 どうやら深成のために、真砂がわざわざ買っておいたらしい。

「そっか。わらわ、まだお仕事あるし。酔っ払っちゃったら出来ないもんね」

 ぺこり、と頭を下げる深成をちらりと見、真砂は扉に向かう。

「課長っ。どこ行くの? 乾杯だよ?」

「着替えてくる」

「え~? 勿体ないじゃん。似合ってるのに」

 深成の声に、真砂の足が止まった。
 が、振り向いた顔は、やはり渋面だ。

「そんなに嫌がらなくても。着物も格好良いよ?」

「こんな格好で仕事が出来るか。そもそも俺は、袴よりも着流しのほうが好きなんだよ」

 深成のストレートな褒め言葉も効果なく、フロアを出て行こうとする真砂を、ミラ子社長が振り返った。

「なるほど! 着流しね。それもええなぁ! 着流しで、そうやな、ちょっと胸元はだけて。懐手で刀を一本落とし差し。うん、風来坊の浪人とか、似合いそうやわ~。よっしゃ、次はそれで行こう! はい、これ持って。じゃあ皆、今年一年お疲れさん! かんぱ~い!!」

 べらべらと喋りながら真砂の腕を引っ張り、シャンパンの紙コップを押し付けると、ミラ子社長は自分のコップと、掴んだ真砂の腕を掲げて叫んだ。
 皆がコップやビールを掲げて応える。

「かんぱ~~い!!」

 そして賑やかに納会が始まった。