「確かにお前は、白兎っぽいな」

「今は赤兎ですぅ」

 深成の声に、ははは、と真砂の笑い声が重なる。
 あきは微動だにせず、その会話を聞いていた。

 先程よりも、随分落ち着いた。
 何ならちょっと不満でさえある。

---あ~……。何て子供っぽい会話なのよ。因幡の白兎なんて、どうでもいいわよ。上様も、状況わかってんのかしら。何昔話にノッてるの---

 どうやら今宵は、このまま事は行われないらしい。

---上様って、こんなお人だった? そういえば、ようやくこういうときの上様のお声を聞けると思ったのに、全然普通じゃない。別にこういう状況でなくても聞ける話よ。何なら、こういうときに聞く話じゃないわよ---

 ぶつぶつと心の中で文句を垂れる。

---でもやっぱり、ちょっと意外。あの上様が、いきなり召したわりには何もしないなんて。この子を召すために、わざわざ初めから中臈として迎えたんだろうに、いざ召したら何もしないなんて、どういうことかしら。近くでよく見たら、思ってたのと違うかったとか?---

 何気に失礼なことを思いつつ、あきはぐるぐると考えを巡らす。
 背後からは、もう何の音も聞こえない。

---まぁ、思ってたよりは幼かったのかもしれないけど。でもそれでご機嫌を損ねるわけでもなし。あの上様だったら、幼かろうが容赦なく伽をさせるだろうし。気に入ったからこそ、手出ししないってことかしら。……あらあら---

 にやりと、あきの目尻が下がる。

---これは面白い展開だわ。今日のところは、まぁいいでしょう。問題は、明日からよ。きっと上様、この子に骨抜きだわ。となれば、千代姐さんの立場は危うくなり、そしてそこで大人しく引き下がる千代姐さんじゃないもの。ふふっ……。どうなるかしら---

 この短い時間でそこまで考え、あきは声を殺して、うふふふ、とほくそ笑んだ。
 邪悪な気を発するあきとは打って変わり、御簾の中では深成が、あきの考える明日からのバトルなど全く頭にない様子で、真砂の腕の中で、健やかな寝息を立てているのであった。

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 大奥バージョン。
 本来はもっと、清五郎は真砂に対して謙らないといけないし、深成だってもっとちゃんとしないといけないのですが( ̄▽ ̄)あんまりキャラは変わらないので、ここでも概ね本編の性格のままです。

 でもちょっと黒清五郎。
 イメージとしては、五代将軍綱吉の側用人・柳沢吉保。出世のためなら己の妻(婚約者だか愛人だかだっけ?)も差し出します。ここでは深成を踏み台に、さらなる出世を企むのでしょう。

 これ、立場を変えてみようかとも思ったんですが。
 上様が清五郎で、側用人が真砂とか。

 でも何か怖くてよ( ̄▽ ̄;)真砂のほうが、えげつない手段で出世しそう。
 いや、うっかり将軍清五郎が真砂の妻・深成を所望したりしたら、躊躇いなく将軍様でも殺しそうだし。

 さて今回は、あきちゃんの妄想がメインと言っても過言でないほど暴走しております。
 すぐ傍で妄想の種を蒔かれてるのに、それを育てないあきちゃんではないですよ。

 そして次の日からの深成の生活やいかに。
 女の嫉妬渦巻く大奥で、この子供がやっていけるのか?

2015/01/28 藤堂 左近