「お仕置きだと? 何のことだ」

 己の下で、えっくえっくと泣き続ける深成に困惑しつつ、真砂は記憶を巡らせた。
 昨日今日来たばかりの娘が、こんな酷いお仕置きを受ける羽目になるようなことがあったっけか。
 行儀がなってないから、早くも何か粗相をしでかしたのだろうかと思っていると、御簾の向こうで、あきが、こほん、と咳払いをした。

「恐れながら、上様」

 平伏し、真砂に声をかける。

「それなる者は、お千代の方様に、湯殿にてそのように磨き上げられたのであります」

「何だと?」

 真砂の目が鋭くなる。

「これは、湯殿で千代にやられたというのか?」

 真砂が視線を落として問うと、深成はこくりと頷いた。

「はい。でも、上様にお茶をかけるような粗相をしてしまったわけですから、そりゃ上様のお世話係りに怒られるのは当たり前です」

 相変わらずしくしくと泣きながら、深成が言う。
 どうやら深成は、初めて会ったときにお茶をこぼした罰を受けたと思っているらしい。
 そこで初めて、真砂は深成が言った『お仕置き』の意味を理解した。

「馬鹿。そんなこと、どうでもいい」

 わし、と乱暴に深成の頭を撫でると、真砂はがばっと上体を起こし、御簾の向こうに声を上げた。

「あき! 千代を呼んで来い!」

「はっ」

 さっと、あきが去っていく。
 程なく、さらさらと衣擦れの音がし、千代が寝所に入ってきた。

 やはりあのような子供では、一晩も無理だったのだと思い、いそいそとやってきた千代だったが、御簾をくぐった途端、その嬉しそうな表情は一変した。

 褥の上に胡坐をかいた真砂が睨んでいる。
 そのすぐ横には、泣きはらした目の深成が、裸のまま転がっている。

 状況だけ見れば、やはり真砂は深成に満足しなかったのだとも思える光景だが、それにしては真砂の目に宿る怒りが尋常ではない。
 ただ気に入らなかっただけとは思えないのだ。
 今にも斬り捨てられそうだ。

 氷のような空気は恐ろしいが、呼ばれたのだから逃げるわけにもいかない。
 そろそろと、千代が腰を下ろそうとしたとき、真砂が口を開いた。

「何だ? これは」

 静かに言い、ちょい、と横の深成を指す。