「……お前、いくつだ」

「はっはいっ! 十四になりますっ!!」

 平伏したまま、深成がでかい声で答える。
 ふむ、と頷き、真砂は立ち上がった。
 びくん! と深成の身体が大きく震える。

「捨吉。お前の妹、奥勤めに出せ」

 回廊に出ながら言われたことに、控えていた捨吉は、目を剥いて真砂を見た。

「えっ……。いえ、あの……でも……」

「十四であれば、問題なかろう。明日中には城に上がるよう、段取りをつけておけ」

 それだけ言って、さっさと出て行く。

 思いもよらぬ要望に、何も言えずにぽかんと見送っていた捨吉だが、まさか断るわけにもいかない。
 上様の命令は絶対だ。
 しかも、手討ちにされても文句を言えない粗相をしでかしている。

「あ、あんちゃん……」

 ふと見ると、深成も不安そうに捨吉を見ている。
 奥勤めなどとは縁なくきた二人には、真砂の考えがわからない。
 困っている二人に、縁側にいた清五郎が声をかけた。

「やったじゃないか。上手くいったな」

「え? ど、どういうことです」

 捨吉が、慌てて聞き返す。

「妹を足掛かりに、出世の機会だ。道が開けたぞ」

 にやりと笑う。
 が、捨吉は、がばっと清五郎に詰め寄った。

「そ、そんなっ! 俺はそんな気は……。それに、いくら何でも俺の妹ってだけだったら、いくら上様のご命令でも無理ですよ。身分が低すぎますし」

「だから、そこを良きようにして城に上げろ、と仰ったんだ。何、傍系とはいえ、お前は俺の縁者だし、そうだな、深成を俺の養子としよう。だったら何も問題あるまい」

 何てことのないように言う。
 そのあまりに落ち着いた清五郎の態度に、捨吉は疑惑の目を向けた。

「清五郎様。もしかして、最初からそのつもりで、家に上様を?」

「ふふ。まぁ、もしかしたら深成を気に入るかもな、と思ってな。申し分のない中臈でも満足しない上様だ。だったら意外に、対極にいる者に興味を持つかもしれん。何、深成だって器量はいい。が、女臭いところはない。奥女中しか知らない上様にとっては、目新しい女子だろう。俺の娘として深成を上げれば、身分に問題はないし、上手く上様の寵を受けられれば、俺の地位も安泰だ」

 もちろんお前のことだって推挙してやる、と言い、清五郎は満足そうに笑った。
 そしてその日のうちに、清五郎の手配で、深成の周りはにわかに慌ただしくなった。