---意外と強引! 素敵! そんなに待ちきれないほど、想いが昂ぶってるの……?---

 どきどきと胸を高鳴らせるあきだったが、真砂は部屋の中を一瞥し、静かにあきに顔を向けた。
 期待に胸を躍らせていたあきの顔が氷結する。

 真砂は無表情だが、身体からは殺気に似た鋭い気が発せられている。
 その原因は、部屋の中央に置かれた机の上の、書きかけの原稿だ。

「大半が出来ている、と言っていたな」

 抑揚のない声で、真砂が言う。
 先程の甘い妄想はどこへやら、あきはふるふると震えながら、小さくこくりと頷いた。

 真砂が靴を脱ぎ、部屋に上がる。
 そして、原稿を手に取った。

「何だ? これは」

「ご、ごめんなさい。でも、もうちょっとで出来ますから」

「そんなことじゃない。この出来は何だと聞いている」

「え?」

「こんな、ちらっと読んだだけでストーリーが読めるようなもの、売れるわけないだろう。それ以前に、これじゃ前のと変わらんじゃないか」

「だって、前のが賞を取ったから、じゃあそれっぽいのを書けばいいんだって」

「阿呆か。同じものばっかり書いても売れるわけないだろうが。大体そんなことしてたら、あっという間にネタ切れだ」

「だってそんなぽんぽん、新しいお話が浮かぶわけないじゃないですか。今は高山賞を取って名前が挙がってるから、今のうちに同じようなものでも、何冊か出してしまおうと思って」

「馬鹿野郎が。賞の名前だけで売れるのは、その一冊だけだ。真の実力は、賞の次に試される。そこでこんな稚拙なもの出してみろ。お前など、一発芸人の仲間入りだ」

 そう言って、真砂は手に持った原稿を、無慈悲に破り捨てた。
 あきがムンクの有名な絵になってもお構いなし。
 真砂はあきを、ノートパソコンのほうへと顎で促した。

「何もあれだけしかないわけじゃあるまい。データぐらい、あるだろう? それを元に、一から練り直せ」

 ふらふらと、あきがパソコンを立ち上げる。
 それからは、あきが夢想していた『編集者と部屋で籠もりっきり』状態が続いたのだが……。

「だから、そんな設定は、もう腹一杯だというんだ」

「お前、日本語がわかってないんじゃないのか? 表現がおかしい」

「セリフすら、誰が喋ってんのかわからん。よくそれで高山賞が取れたもんだな」

「こいつはついさっき、工事現場にいただろう。何故この時点で高原にいるんだ。自分のキャラぐらい覚えておけ」

 甘い雰囲気など微塵もない。
 しかも。

「ああ、こんな時間。あの、ご飯作りますから、食べてください。あ、お布団どうしましょう」

 当然泊まるものと、頬を赤らめて言うあきに、真砂は一層深く、眉間に皺を寄せた。

「構うな。俺はホテルを取ってある。そんな暇があったら、一ページでも書くことだ」

 一瞬であきの欲望は打ち砕かれてしまう。
 そして次の瞬間には、あきのすぐ後ろで足を組んだ真砂から、容赦ない暴言が浴びせられるのだった。

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 う~ん、あき相手だと、ちょっと弱いなぁ。
 あきって大人しいから、下手すると単なる苛めになってしまいそうで難しいんですわ。声を荒げて怒鳴りつけるってことができないっていうか。
 真砂の本領は発揮できないかも。ていうか、すっかり真砂はドSキャラが定着してしまった( ̄∀ ̄)
 出版業界のことはよく知りませんので、果たして編集者がこんなお仕事なのかは定かでありませぬ。イメージです。
 その辺りは緩い目で見ていただきたい。
 最近本編読んだら、ギャップが凄すぎて笑ってしまう( ̄m ̄*)