ある日、お広座敷でくつろいでいた真砂の元に、側用人の清五郎がやってきた。
「退屈そうだな。ちょいと季節外れだが、気晴らしに宴でも開いちゃどうだ?」
「宴か……」
あまり興味なさそうに応じる真砂に、清五郎は座りながら続けた。
「最近は、もっぱらお千代を愛でているようだな。あんまり一人に執着するのは、よろしくないぜ」
「愛でてなんかいない。面倒だから、指名しないだけだ。特に誰がいい、とも思わんし。まぁ、あいつは上手いから楽だしな」
「勿体ないねぇ。ここにはこんなに女子が溢れてるってのに。いっそのこと、町に出てみるか? そうだ、捨吉がこの前、景色のいい場所を探してきたぜ。野駆けにでも行こう」
「そうだな」
元々真砂は部屋に籠ってじっとしているのは好きではない。
かといって、どこかに行くとなると、それはそれでお供がぞろぞろついてきて鬱陶しい。
行くのであれば、お忍びだ。
「面白そうだな。いいぜ、行こう」
「じゃ、明日だな。段取りは簡単に、捨吉に命じておく」
清五郎はそう言って、廊下を歩いて行った。
「ほぉ。これはなかなかいい場所だな」
愛馬に跨った真砂が、しばし辺りを流して言った。
町からそう離れたわけでもないのに、辺りに人家はなく、だだっ広い野原が広がっている。
「はい! ここは我が家から少し入ったところなのですが、川に隔てられているせいか、地元の人間しかこちら側まで来ないのです」
先導していた捨吉が、嬉しそうに説明する。
捨吉は単なる清五郎の小者だが、側用人である清五郎の縁者でもあり、それなりに使える者のため、本来真砂となど会うことも許されない身分でありながら、何かと重宝されている。
「上様。小汚いところではありますが、冷えた茶など用意してございます。どうぞ、我が家にて一服していかれては」
「そうだな」
供は捨吉と清五郎のみ。
特に何の用意もしてきていないので、喉を潤す水もない。
頷き、真砂は捨吉の案内に従った。
「どうぞ、こちらへ」
捨吉の家は、小さいが風情のある屋敷だった。
前もって用意された部屋に落ち着き、真砂はよく手入れされた庭を眺めた。
「あいつ、若いのに良い屋敷持ってるじゃないか」
「小さいがな。だが妹と二人だし。俺もここは気に入って、町に出るときはよく立ち寄ってる」
言いつつ、清五郎は慣れたように、縁側に腰掛けた。
「退屈そうだな。ちょいと季節外れだが、気晴らしに宴でも開いちゃどうだ?」
「宴か……」
あまり興味なさそうに応じる真砂に、清五郎は座りながら続けた。
「最近は、もっぱらお千代を愛でているようだな。あんまり一人に執着するのは、よろしくないぜ」
「愛でてなんかいない。面倒だから、指名しないだけだ。特に誰がいい、とも思わんし。まぁ、あいつは上手いから楽だしな」
「勿体ないねぇ。ここにはこんなに女子が溢れてるってのに。いっそのこと、町に出てみるか? そうだ、捨吉がこの前、景色のいい場所を探してきたぜ。野駆けにでも行こう」
「そうだな」
元々真砂は部屋に籠ってじっとしているのは好きではない。
かといって、どこかに行くとなると、それはそれでお供がぞろぞろついてきて鬱陶しい。
行くのであれば、お忍びだ。
「面白そうだな。いいぜ、行こう」
「じゃ、明日だな。段取りは簡単に、捨吉に命じておく」
清五郎はそう言って、廊下を歩いて行った。
「ほぉ。これはなかなかいい場所だな」
愛馬に跨った真砂が、しばし辺りを流して言った。
町からそう離れたわけでもないのに、辺りに人家はなく、だだっ広い野原が広がっている。
「はい! ここは我が家から少し入ったところなのですが、川に隔てられているせいか、地元の人間しかこちら側まで来ないのです」
先導していた捨吉が、嬉しそうに説明する。
捨吉は単なる清五郎の小者だが、側用人である清五郎の縁者でもあり、それなりに使える者のため、本来真砂となど会うことも許されない身分でありながら、何かと重宝されている。
「上様。小汚いところではありますが、冷えた茶など用意してございます。どうぞ、我が家にて一服していかれては」
「そうだな」
供は捨吉と清五郎のみ。
特に何の用意もしてきていないので、喉を潤す水もない。
頷き、真砂は捨吉の案内に従った。
「どうぞ、こちらへ」
捨吉の家は、小さいが風情のある屋敷だった。
前もって用意された部屋に落ち着き、真砂はよく手入れされた庭を眺めた。
「あいつ、若いのに良い屋敷持ってるじゃないか」
「小さいがな。だが妹と二人だし。俺もここは気に入って、町に出るときはよく立ち寄ってる」
言いつつ、清五郎は慣れたように、縁側に腰掛けた。