【キャスト】
将軍:真砂 中臈:千代・あき 側用人:清五郎
小者:捨吉 捨吉の妹:深成
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 その夜も、あきは少し離れたところに垂らされた御簾の向こうに聞き耳を立てながら、楽しい時間を過ごしていた。

---うふふ。相変わらず千代姐さんは激しいわぁ。でも……いつものことながら、上様の声が聞こえないから不思議よねぇ。初めはそのほうが、こっちも勝手に上様の状態を想像出来るから楽しかったけど、それも最近限界だわ。言葉責めとかしてくれたら、もっともっと楽しいのに---

 背後では、将軍である真砂とお手付きの中臈である千代との情事の真っ最中である。
 が、聞こえるのは千代の愉悦の声と激しい息遣いだけで、真砂のほうは、声はおろか息遣いも聞こえない。

---声はともかく、息ぐらいは乱れるもんじゃないかしら。まして相手は千代姐さんだし。時間も長いし---

 大奥は女の園だ。
 何十、何百といる女子の中で、上様にお相手して貰える者など僅かである。
 あとはその身を持て余すだけ。

 大奥に入ってしまえば、そうそう外になど出られない。
 当然男と出会うこともない。
 
 それなりの歳になれば、疼く身体を女子同士で慰め合うしかないのだ。
 そういったこともあり、誰が色事に長けているかというのは、おのずと知れるものである。

 千代はお手付きになる前から、随分上手かった。
 加えて見かけも申し分ない。
 上様の目に留まるのが当然の女子であった。

 ちなみにあきも千代と地位は同じだが、もっぱら閨の見張り役だ。

 やがて千代が小さく叫び、静かになった。
 衣擦れの音がし、僅かに人の動く気配がする。

「上様……」

 不満そうな千代の声で、真砂がさっさと背を向けたことがわかった。

---う~ん、あの千代姐さんを相手にして、満足しないのかしら。そのわりには、閨はもっぱら千代姐さん独占よねぇ。気に入らないわけでもないと思うんだけど---

 こうなったら、この上様が狂喜するような相手をあてがってみたいものだと、あきは背を向けたまま、そうなったときのことを、あれこれ想像して楽しむのだった。