そしてお昼前。

「じゃあね、六郎兄ちゃん。まだ熱下がったばっかりなんだから、無理しないようにね」

 駅の改札で、深成は六郎に指を突き付けつつ言った。
 昨日の嵐が嘘のように晴れ渡った、爽やかな日である。

「大丈夫だよ。薬も貰ったしね」

 伸び上って言う深成に苦笑いしつつ、六郎は言った。

「んでも。朝一でぶっ倒れたじゃん。もぅ、心配させないで」

 ぷぅ、と膨れる。
 きゅん、と六郎の胸が締め付けられた。

「深成ちゃんはさ、帰ってくる気はないの?」

 やはりこの深成を、あのように危険な檻の中に入れておくのは嫌だ。
 このまま連れて帰りたいぐらいだが、さすがにそれは出来ない。

「ん~、ないなぁ」

「でも。共同生活って大変だろう? あんな、意地悪な人もいるし」

「……真砂、意地悪じゃないよ。皆、良い人だよ」

 六郎は少し渋い顔をした。
 どう甘く見ても、真砂は『良い人』には当たらない。

「それは、深成ちゃんに対してだけだろ?」

 認めたくないが、多分そうなのだ。
 六郎の言葉に、深成はちょっと首を傾げた。

「どうだろ。……ううん、良い人……ではないかもね。でも、嫌な人ではないよ。だからこそ、皆真砂のことが好きなんだし」

「うん……。まぁ、そうかもね」

 六郎だって深成のことを除けば、真砂の良いところを探すことだって出来るのだ。
 異様に態度が冷たいだけで、別に人の嫌がることをするわけでもない。

「罠を仕掛ける以外は、そう嫌な奴でもないのかな」

 何だかんだで、急遽六郎が泊まることになっても、特に嫌な顔はしなかったし、ご飯だって作ってくれた。
 この前だって、最終的にはベッドも貸してくれたではないか。

 ただそういったあらゆる場面には、深成がいた。
 深成がいることが条件のような気もするが。

「あはは。けどまぁ、あの罠だって考えようによっちゃ、わらわのためなんだよね」

 笑いつつ、深成が言う。

「いっつも真砂に無防備だって言われるし。罠を仕掛けられたら、神経が研ぎ澄まされるでしょ。わらわの無防備さを心配してくれてるのかも」

 それはちょっと言い過ぎかなぁ~、と言いながら、ちょっと照れたように深成は俯いた。

 少し、この前とは感じが違う。
 女の子っぽくなったような。

 ざわ、と六郎の身体に鳥肌が立った。

「あの……。み、深成ちゃん。昨夜、前みたいに、すぐに寝た?」

 まさかとは思うが、昨夜のうちに何かあったのだろうか。
 前と違い、思いっきり二人っきりだった。
 子供でもない男女が一つのベッドで一晩過ごして、何もないということがあり得るのか。

「いやいや、まさかね。深成ちゃんは、まだまだ子供だよね」

 いくら真砂が意味ありげな宣言を前にしていたとしても、真砂の言う通り、『女になった』というほどの変化ではない。
 やはり幼いし、どう贔屓目に見てもまだ『女の子』だ。