「何でっ? 熱は下がってるはずなのにーっ!」

 それともやっぱり、ちゃんと体温計で測るべきかなぁ、とおろおろする深成の横で、あきはにやにやと二人を眺めた。

「ふふっ。六郎さんて、案外血の気が多いのねぇ」

 でも鼻血ぐらいコントロール出来ないようじゃ、まだまだね、と心の中で付け足し、あきは立ち上がって居間からティッシュペーパーを持ってきた。

「のぼせちゃったんでしょ。しばらく寝かしておけば、そのうち気付くわよ」

「そ、そっか。いきなりびっくりするようなことが起こったからかな」

 納得し、深成はとりあえず、倒れている六郎に毛布をかけた。
 動かそうにも、六郎はここにいる誰よりもでかい。
 幸い廊下ではなく深成の部屋の中なので、そんな邪魔にはならないだろう。

「そうねぇ。六郎さんには、刺激が強すぎたかもねぇ」

 あきが、相変わらずにやにやと言う。
 が、深成も憮然と頷いた。

「そうだよ。いきなりこんな強烈な穴が開いてたら、びっくりするじゃんね。わらわだって、初めはびっくりしたもの」

 どうやら深成がさっき言った『びっくりするようなこと』というのは、罠のことだったようだ。

---ま、深成ちゃんの思考ならそうでしょうね。おでこ引っ付けることなんて、全然大したことじゃないんだろうし---

 そうこうしているうちに、キッチンのほうからいい匂いが漂ってくる。
 深成が、ぱっと顔を上げた。

「あっ。真砂、わらわもベーコンエッグ食べたい~」

 ててて、とキッチンのほうに駆けていく。
 そして振り向き様、あきに声をかけた。

「あきちゃん、ご飯は? 食べる?」

「あ、そうね。そうだ深成ちゃん。駅前に焼き立てメロンパンが来てたから、買ってきたよ」

「ほんとっ?」

 あきが居間に置いていた荷物から差し出したパンの紙袋を受け取り、深成は嬉しそうに微笑んだ。