「深成ちゃん、大丈夫だった? 何があった……」

 言いつつ、ずいっと一歩踏み出した六郎が、ぎょっとしたように廊下を見る。
 無理もない。
 部屋のすぐ前に、大穴が口を開けているのだから。

「命拾いしたな」

 小さく、真砂が言う。
 そしてさっさとキッチンに歩いて行った。
 やはり、真砂の罠の狙いは六郎だったらしい。

「ところであきちゃん。えらい早く帰ってきたんだね。わらわ、全然気付かなかった」

 そんなことには気付かず、深成が穴の横に座り込んでいるあきに言った。

「ああ、うん。だって深成ちゃんが気になったし」

「そだね。あきちゃんがいてくれたら、わらわ、お風呂も怖くなかったのに~」

 にこにこと言う。
 あきの言葉に嘘はないが、深成とは微妙にニュアンスが違う。

 が、特にあきも訂正することなく、目尻を下げたまま、ちらりと開いたままのドアから真砂の部屋を見た。

「……ね、何で六郎さんが一人で深成ちゃんの部屋で寝てたの?」

 そもそも何故六郎がいるのだ、というところは、興味がないのでスルー。
 嵐で電車が止まったのは知っているし、なので予想はつくのだ。

「ああ。昨日、凄い嵐だったじゃん。わらわも帰れなくなっちゃってたんだけどね、真砂が迎えに来てくれてね。ちょうど六郎兄ちゃん、熱出してたし……て、そうだ。六郎兄ちゃん、熱はどう?」

 はた、と深成が、部屋の入り口で立ち尽くしている六郎に向かって声をかけた。
 手を伸ばし、六郎の額につける。

「下がったかなぁ……? 手で測ってもわかんない」

 小首を傾げて言うと、深成は背伸びをして、六郎に顔を近づけた。
 六郎がぎょっとしている間に、深成は己の額を、六郎の額にぴとっとつける。
 すぐ横で、あきの目尻がこれ以上ないほどに、ぐぐっと下がった。

「ん、下がったみたいね」

 額を離し、にこりと笑う。
 六郎は眼を見開いて固まっている。

 深成が、自ら至近距離に顔を寄せてきたのだ。
 そして、あろうことか、額と額が触れ合った。

 額同士など、かなりな密着度合いだ。
 キスをする勢いではないか、と、ここまで考えが及んだところで、六郎の視界が黒くなった。

「あれっ!! 六郎兄ちゃん! どうしたのっ!!」

 深成の声が遠くなる。
 六郎はその場にぶっ倒れてしまった。