【キャスト】
課長:真砂 新入社員:捨吉 派遣事務員:深成 部長:中の長老
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
机に肩肘をついて、書類をめくっていた真砂の手が止まった。
前に立っていた捨吉の肩が、ぴくりと揺れる。
「……駄目だな」
ばさ、と読んでいた企画書を机に投げ出す。
「だ、駄目ですか」
「何が言いたいのか、これじゃわからん。俺にわからんのに、客にわかるわけないだろう」
「は、はぁ……」
それだけ言って席を立つ真砂の背を見送り、捨吉は、しょぼんと自席に戻った。
「残念だったねぇ。課長ももうちょっと、ここをこうすればいいよってアドバイスしてくれてもいいのにねぇ」
前の席のパソコンの影から、深成がいつもデスクに置いているキャンディーポットを差し出して言った。
「疲れたときは、甘いものだよ」
「……お前はお菓子好きだなぁ。太るよ」
言いつつも、有り難く飴玉を一つ貰って口に放り込む。
はぁ、とため息をついて、先程突っ返された企画書を、ぱらぱらと見返した。
「難しいなぁ。でも課長に認めてもらうために頑張らないと」
とん、とボツになった企画書を揃え、ちらりと窓際に目を移す。
真砂は背を向けて電話中だ。
携帯片手に窓の外を見ながら、もう片方の手をポッケに突っ込んでいる。
その後ろ姿に、フロアの女子社員が熱い視線を送る。
---まぁ、課長は格好良いもんな。俺も早く、課長に認められるようになりたい---
捨吉からすると、憧れの上司だ。
故に女子社員の気持ちもよくわかる。
この課長直属の部下ということが、新人捨吉の何よりの誇りだ。
「はい、深成ちゃん。旅行に行ってきたから、お土産」
「うわぁ、ありがとう~」
箱に入った饅頭を深成に差し出す女子社員の一人、あきが、ちらりと真砂に目をやった。
捨吉にも饅頭を手渡しながら、声を潜める。
「か、課長にもあげたいんだけど……」
「ん? あげればいいじゃん。でも、無駄だと思うな~」
もしゃもしゃと饅頭を頬張りながら、深成は真砂に向かって大きく手を振った。
「課長~。あきちゃんが、お土産買ってきてくれましたよ~」
「いらん」
振り返りもせずに言うと、真砂はスーツの上着を掴んで、さっさと出て行った。
さてその数日後。
練り直した企画書を、再び捨吉は真砂に提出していた。
いつものように、真砂は軽く頬杖をついて、書類に目を通す。
その横で、捨吉はがちがちに固まっていた。
昨夜、徹夜する勢いで作った企画書だ。
今度こそ、認めてもらいたい。
「……ふむ」
真砂が企画書を閉じた。
静かに立ち上がる。
駄目だったかと俯いた捨吉の視界が、不意に翳る。
そして、ふわりと真砂の手が、捨吉の前髪を掻き上げるように、軽く掴んだ。
「やるじゃないか。いい出来だ」
くしゃりと捨吉の前髪を掴んだまま、真砂が少しだけ口角を上げる。
その表情に、捨吉の心臓が飛び上がった。
「ではこれは、上に回しておこう」
そう言って、企画書をノートパソコンの上に置いて会議室に向かう真砂に、捨吉は慌てて頭を下げた。
「あっありがとうございます!」
勢い良く身体をくの字に折り曲げる捨吉だったが、いまだ心臓は、ばくばくと暴れまくっている。
下を向いているせいか、耳の中が異様に熱い。
そろ、と顔を上げ、フロアを出て行く真砂の背中を見つめる。
---な、何だ? そりゃ俺は、課長のことを尊敬してるし、大好きだ。けど、それはあくまで上司として尊敬してるというだけであって、決して、決して怪しい気持ちなんかじゃ……。大体俺には、その気(け)はないっ!!---
真砂を見送る己の視線が、どこか他の女子社員と同じような気がして、捨吉は慌ててその気持ちを打ち消した。
だが……。
そろ、と前髪に手をやる。
女子は、前髪をくしゃっとされるのが、たまらんらしい。
---わかる気がする……---
こそりと思い、また自分で慌てる捨吉であった。
そしてその頃、真砂は一つ上の会議室で、先程の企画書を提出していた。
「ほぉ。これはなかなか斬新なアイデアだ」
「うむ、これはいけるかもしれん」
真砂のさらに上の、部長クラスが企画書を見ながら頷き合う。
そしてひとしきり読み終わった後、真砂の部の部長が、にこにこと口を開いた。
「これは、君が?」
「私というよりは、うちのチームが、ですね。しごいてしごいて、やっとモノになるものを上げてきたようです」
「さすがだ。君の指導力には、全く舌を巻く」
特に何も言わず、真砂は軽く頭を下げる。
部長は満足そうに頷くと、企画書に採用の印を押した。
「では責任者は君ということで。企画者も君でいいかね?」
「いえ」
真砂の名を書こうとする部長を制し、真砂は密かに底意地の悪い笑みを浮かべた。
「いっそのこと、責任者も企画者にしてください。新人とはいえ、誰かが最終的に責任を取ってくれると思われては困ります。己で企画したことなら、最後まで己で責任を取らせます」
「しかし……。確かにこれは、案としては素晴らしいが、かなり難しいぞ? 新人に背負わすのは、いささか荷が重いのではないかね?」
「自分で考えたんですよ? 出来なくてどうするんです」
真砂の強い瞳に、部長は思わずたじろいだ。
「ま、まぁそうだな……。じゃあそういうことで」
こうして企画を練るだけで徹夜の勢いだった難しい案件は、捨吉の責任において動き出すこととなった。
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
……ま、また長くなってしまった( ̄∀ ̄;)
どうしても女子に対する真砂の意地悪エピソードを一つは入れたくなってしまう悪い癖が。
うーむ、ちょっと難しかったなぁ。捨吉メインには……見えないかも。衆道要素もやっぱ薄~~。まぁまだ入り口ですから。
ところでほんとに女子は前髪くしゃっとされるの、たまらんのですかね?(6 ̄ ̄)
そしてこの後も真砂のお陰で、捨吉の(いろんな意味で)眠れぬ夜は続くのでしょう。
あ、コレがその後、あのV.Dバージョンに続くのかもね。とか言ってみたり( ̄∀ ̄)
課長:真砂 新入社員:捨吉 派遣事務員:深成 部長:中の長老
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
机に肩肘をついて、書類をめくっていた真砂の手が止まった。
前に立っていた捨吉の肩が、ぴくりと揺れる。
「……駄目だな」
ばさ、と読んでいた企画書を机に投げ出す。
「だ、駄目ですか」
「何が言いたいのか、これじゃわからん。俺にわからんのに、客にわかるわけないだろう」
「は、はぁ……」
それだけ言って席を立つ真砂の背を見送り、捨吉は、しょぼんと自席に戻った。
「残念だったねぇ。課長ももうちょっと、ここをこうすればいいよってアドバイスしてくれてもいいのにねぇ」
前の席のパソコンの影から、深成がいつもデスクに置いているキャンディーポットを差し出して言った。
「疲れたときは、甘いものだよ」
「……お前はお菓子好きだなぁ。太るよ」
言いつつも、有り難く飴玉を一つ貰って口に放り込む。
はぁ、とため息をついて、先程突っ返された企画書を、ぱらぱらと見返した。
「難しいなぁ。でも課長に認めてもらうために頑張らないと」
とん、とボツになった企画書を揃え、ちらりと窓際に目を移す。
真砂は背を向けて電話中だ。
携帯片手に窓の外を見ながら、もう片方の手をポッケに突っ込んでいる。
その後ろ姿に、フロアの女子社員が熱い視線を送る。
---まぁ、課長は格好良いもんな。俺も早く、課長に認められるようになりたい---
捨吉からすると、憧れの上司だ。
故に女子社員の気持ちもよくわかる。
この課長直属の部下ということが、新人捨吉の何よりの誇りだ。
「はい、深成ちゃん。旅行に行ってきたから、お土産」
「うわぁ、ありがとう~」
箱に入った饅頭を深成に差し出す女子社員の一人、あきが、ちらりと真砂に目をやった。
捨吉にも饅頭を手渡しながら、声を潜める。
「か、課長にもあげたいんだけど……」
「ん? あげればいいじゃん。でも、無駄だと思うな~」
もしゃもしゃと饅頭を頬張りながら、深成は真砂に向かって大きく手を振った。
「課長~。あきちゃんが、お土産買ってきてくれましたよ~」
「いらん」
振り返りもせずに言うと、真砂はスーツの上着を掴んで、さっさと出て行った。
さてその数日後。
練り直した企画書を、再び捨吉は真砂に提出していた。
いつものように、真砂は軽く頬杖をついて、書類に目を通す。
その横で、捨吉はがちがちに固まっていた。
昨夜、徹夜する勢いで作った企画書だ。
今度こそ、認めてもらいたい。
「……ふむ」
真砂が企画書を閉じた。
静かに立ち上がる。
駄目だったかと俯いた捨吉の視界が、不意に翳る。
そして、ふわりと真砂の手が、捨吉の前髪を掻き上げるように、軽く掴んだ。
「やるじゃないか。いい出来だ」
くしゃりと捨吉の前髪を掴んだまま、真砂が少しだけ口角を上げる。
その表情に、捨吉の心臓が飛び上がった。
「ではこれは、上に回しておこう」
そう言って、企画書をノートパソコンの上に置いて会議室に向かう真砂に、捨吉は慌てて頭を下げた。
「あっありがとうございます!」
勢い良く身体をくの字に折り曲げる捨吉だったが、いまだ心臓は、ばくばくと暴れまくっている。
下を向いているせいか、耳の中が異様に熱い。
そろ、と顔を上げ、フロアを出て行く真砂の背中を見つめる。
---な、何だ? そりゃ俺は、課長のことを尊敬してるし、大好きだ。けど、それはあくまで上司として尊敬してるというだけであって、決して、決して怪しい気持ちなんかじゃ……。大体俺には、その気(け)はないっ!!---
真砂を見送る己の視線が、どこか他の女子社員と同じような気がして、捨吉は慌ててその気持ちを打ち消した。
だが……。
そろ、と前髪に手をやる。
女子は、前髪をくしゃっとされるのが、たまらんらしい。
---わかる気がする……---
こそりと思い、また自分で慌てる捨吉であった。
そしてその頃、真砂は一つ上の会議室で、先程の企画書を提出していた。
「ほぉ。これはなかなか斬新なアイデアだ」
「うむ、これはいけるかもしれん」
真砂のさらに上の、部長クラスが企画書を見ながら頷き合う。
そしてひとしきり読み終わった後、真砂の部の部長が、にこにこと口を開いた。
「これは、君が?」
「私というよりは、うちのチームが、ですね。しごいてしごいて、やっとモノになるものを上げてきたようです」
「さすがだ。君の指導力には、全く舌を巻く」
特に何も言わず、真砂は軽く頭を下げる。
部長は満足そうに頷くと、企画書に採用の印を押した。
「では責任者は君ということで。企画者も君でいいかね?」
「いえ」
真砂の名を書こうとする部長を制し、真砂は密かに底意地の悪い笑みを浮かべた。
「いっそのこと、責任者も企画者にしてください。新人とはいえ、誰かが最終的に責任を取ってくれると思われては困ります。己で企画したことなら、最後まで己で責任を取らせます」
「しかし……。確かにこれは、案としては素晴らしいが、かなり難しいぞ? 新人に背負わすのは、いささか荷が重いのではないかね?」
「自分で考えたんですよ? 出来なくてどうするんです」
真砂の強い瞳に、部長は思わずたじろいだ。
「ま、まぁそうだな……。じゃあそういうことで」
こうして企画を練るだけで徹夜の勢いだった難しい案件は、捨吉の責任において動き出すこととなった。
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
……ま、また長くなってしまった( ̄∀ ̄;)
どうしても女子に対する真砂の意地悪エピソードを一つは入れたくなってしまう悪い癖が。
うーむ、ちょっと難しかったなぁ。捨吉メインには……見えないかも。衆道要素もやっぱ薄~~。まぁまだ入り口ですから。
ところでほんとに女子は前髪くしゃっとされるの、たまらんのですかね?(6 ̄ ̄)
そしてこの後も真砂のお陰で、捨吉の(いろんな意味で)眠れぬ夜は続くのでしょう。
あ、コレがその後、あのV.Dバージョンに続くのかもね。とか言ってみたり( ̄∀ ̄)