「……ふむ。よくもまぁ、そんなことになるまで放っておけたもんだ」
しばらくしてから、真砂は呆れたように言いつつ、ミラーを置いた。
そして、ちらりと深成を見る。
「麻酔……したほうがいいだろうな」
あまりの深成の怖がりように、とても治療に耐えられないだろうと思った故の判断だが、深成は注射も嫌いである。
目を大きく開いて、真砂を見た。
が、やはりそんな深成の必死の眼差しにも、真砂は冷たい目を向ける。
そして、恐怖で身体が動かない深成の見えないところで、何かをかちゃかちゃ用意する。
「大丈夫よぉ~。先生は注射も上手だから、痛くないよ。ほら、頑張ったら、帰りにこれあげるからね~」
足元であきが、ビニールに包まれた小さなぬいぐるみを見せた。
歯医者の何かなのだろう、歯ブラシを持ったトカゲのぬいぐるみだ。
……微妙。
そうこうしているうちに、真砂が身を起こした。
同時に素早く深成の額を押さえつける。
深成が暴れる暇もなく、ぎりぎりまで死角に隠していた注射器が、さっと口の中に入ってきた。
「!!!」
あっと思ったときには、僅かに歯茎がちくりとした。
……それだけで、真砂は注射器を抜いた。
「……」
涙の溜まった目で、深成は、じ、と真砂の手元を見た。
押さえつけ方は乱暴だが、刺す直前まで注射器を見せないところといい、注射の上手さといい、確かに腕は良さそうだ。
麻酔が効くのを待って、いよいよ真砂の手が歯を削る機械に伸びる。
真砂の右手で、ふぃーん、という音が響いた。
ふるふるふる、と深成が震える。
「……それぐらいの震えで留めておけよ」
呆れたように言い、ずいっと真砂が顔を近づけた。
そしてすぐに、がりがりがり、と削られた歯が飛び散る。
「~~~っ」
ぎゅうっと目を瞑って耐える深成の額を押さえつけ、真砂は歯を削っていった。
「よし。口を漱げ」
しばらくしてから、額にあった手が離れ、低い声が落ちた。
ぱち、と目を開き、そろそろと起き上がると、深成は診察台の横にあるコップを取って、水を口に入れる。
が。
「あえ?」
ぼたぼたぼた、と水は深成の口の横からこぼれてしまう。
「麻酔が効いてるからな。この辺りの感覚がないだろう」
言いつつ、真砂がタオルで深成の頬を拭いた。
「うあい……えきあい(うがい、出来ない)」
「まぁ、お前が気持ち悪くないならいいんだが」
一通り深成の顔を拭くと、真砂はあきに、口腔内を洗浄するよう命じた。
そして、とん、と深成の額を押して、再び診察台に寝かす。
---あら先生。何だかんだで優しいじゃない。先生が自らこぼれた水を拭いてあげるだなんて珍しい。先生になら、もっと乱暴に診察台に押し倒されてもいいのに---
深成の口に水のホースと吸い取るホースを突っ込みながら、あきは目を細めて真砂を見た。
深成もじっと真砂を見る。
言葉は全然優しくないが、意外に押さえつける力も加減しているようだし、水をこぼしても怒らない。
何より治療が痛くない。
再び真砂が深成に向き直ったときは、深成はちゃんと口を開けた。
しばらくしてから、真砂は呆れたように言いつつ、ミラーを置いた。
そして、ちらりと深成を見る。
「麻酔……したほうがいいだろうな」
あまりの深成の怖がりように、とても治療に耐えられないだろうと思った故の判断だが、深成は注射も嫌いである。
目を大きく開いて、真砂を見た。
が、やはりそんな深成の必死の眼差しにも、真砂は冷たい目を向ける。
そして、恐怖で身体が動かない深成の見えないところで、何かをかちゃかちゃ用意する。
「大丈夫よぉ~。先生は注射も上手だから、痛くないよ。ほら、頑張ったら、帰りにこれあげるからね~」
足元であきが、ビニールに包まれた小さなぬいぐるみを見せた。
歯医者の何かなのだろう、歯ブラシを持ったトカゲのぬいぐるみだ。
……微妙。
そうこうしているうちに、真砂が身を起こした。
同時に素早く深成の額を押さえつける。
深成が暴れる暇もなく、ぎりぎりまで死角に隠していた注射器が、さっと口の中に入ってきた。
「!!!」
あっと思ったときには、僅かに歯茎がちくりとした。
……それだけで、真砂は注射器を抜いた。
「……」
涙の溜まった目で、深成は、じ、と真砂の手元を見た。
押さえつけ方は乱暴だが、刺す直前まで注射器を見せないところといい、注射の上手さといい、確かに腕は良さそうだ。
麻酔が効くのを待って、いよいよ真砂の手が歯を削る機械に伸びる。
真砂の右手で、ふぃーん、という音が響いた。
ふるふるふる、と深成が震える。
「……それぐらいの震えで留めておけよ」
呆れたように言い、ずいっと真砂が顔を近づけた。
そしてすぐに、がりがりがり、と削られた歯が飛び散る。
「~~~っ」
ぎゅうっと目を瞑って耐える深成の額を押さえつけ、真砂は歯を削っていった。
「よし。口を漱げ」
しばらくしてから、額にあった手が離れ、低い声が落ちた。
ぱち、と目を開き、そろそろと起き上がると、深成は診察台の横にあるコップを取って、水を口に入れる。
が。
「あえ?」
ぼたぼたぼた、と水は深成の口の横からこぼれてしまう。
「麻酔が効いてるからな。この辺りの感覚がないだろう」
言いつつ、真砂がタオルで深成の頬を拭いた。
「うあい……えきあい(うがい、出来ない)」
「まぁ、お前が気持ち悪くないならいいんだが」
一通り深成の顔を拭くと、真砂はあきに、口腔内を洗浄するよう命じた。
そして、とん、と深成の額を押して、再び診察台に寝かす。
---あら先生。何だかんだで優しいじゃない。先生が自らこぼれた水を拭いてあげるだなんて珍しい。先生になら、もっと乱暴に診察台に押し倒されてもいいのに---
深成の口に水のホースと吸い取るホースを突っ込みながら、あきは目を細めて真砂を見た。
深成もじっと真砂を見る。
言葉は全然優しくないが、意外に押さえつける力も加減しているようだし、水をこぼしても怒らない。
何より治療が痛くない。
再び真砂が深成に向き直ったときは、深成はちゃんと口を開けた。