「そりゃ、先生のために作ったんだから、持って帰って欲しいけど。ていうか、置いて帰られたら悲しいけど」

「それに何より、ここに置いておいたら、あっという間になくなりそうだ」

「先生のなんだから、そんなに食べないよっ」

「どうかな。このケーキだって、明らかにでかいぞ。お前、自分も食べるために、でかく作ったんじゃないのか」

「あれ、何でバレたの」

 えへへ、と笑うと、深成は真砂に顔を寄せ、あ〜ん、と口を開けた。
 ちょっと冷たい目をした真砂だったが、ちょいとケーキを掬うと、深成の口に入れた。

「!!」

 思わず深成は目を見開いた。
 ノリで『あ〜ん』としてみたものの、まさか本当に食べさせてくれるとは。

「ひえぇぇ〜〜っ!! せ、先生〜っ」

 普通はこういうことは、心の中で思うものだ。
 なのに深成は、両手で口を押さえて叫び声を上げた。

「……あ、美味しい〜〜っ」

 途端に、ぱぁっと笑顔になる。
 さっきの流れだと、甘やかな雰囲気になったかもしれないのに、口の中の美味しさに負けてしまった。
 というよりは、真砂が食べさせてくれた嬉しさと、ケーキの美味しさという至福のWパンチで、深成は今、この上なく幸せなのだ。

「自分で作ったものに、そこまで感動する奴も珍しいよな」

 ケーキを口に運びつつ、呆れたように真砂が言う。

「だって一生懸命作ったものが美味しく出来たんだもん。嬉しいじゃん」

 にこにこと無邪気に言う深成に、真砂は僅かに口角を上げた。

「先生だって、お料理出来る子のほうがいいでしょ? あ、わらわ、ご飯とか作りに行ってあげよっか?」

「よせよせ。あくまでそれは、クッキーを食うための手段だ。別にいつ来てもいいが、世間の目ってものもあるんだからな」

 このような子供が部屋に出入りするのを、同じマンションの住人に見られるのはよろしくないだろう。
 はっきり言って犯罪だ。

「わかった。気を付ける」

 こそこそと忍び入るのは得意である。
 大好きな真砂に迷惑がかかるのも避けたいし、深成は、ぐ、と拳を握り締めた。

「それは気を付けられるけどさ。先生ん家、ほんとにいきなり行ったりしていいの?」

 ちょっとおずおずと、深成が聞く。
 真砂は少し訝しげな顔をした。

「別に何があるわけでもない。……まぁ、そりゃいきなり来ても、いないことはあるだろうがな」

 だから鍵を渡しただろ、と軽く言う真砂に、深成はなおも、もじもじする。