「お前が全部作ったのか?」

「そうだよ。いっぱい泡立てないと駄目だったから、ちょっと大変だった。んでも先生のためだもんっ」

 にこにこと言う深成に、真砂は息をついた。
 無邪気にわくわく、と身を乗り出し、深成はきらきらした目を向ける。

「……いただきます」

 深成に気圧され、真砂はスプーンをケーキに突き刺した。
 見た目はでかいが、ほとんど空気だ。
 ふわふわな生地を掬い、口に入れる。

「美味しいっ?」

 ずい、と深成が、さらに身を乗り出した。

「ああ」

「やった!」

 諸手を挙げて喜ぶ深成を、真砂はちらりと見た。
 ここまで無邪気に好意を見せる子も珍しい。
 幼稚園児じゃあるまいし、と思いつつも、それはそれで嫌な気はしないものだ。

「そうそう、あのね。先生クリスマスプレゼントもくれたから、もう一つ用意してるんだよ」

「あれはクリスマスというよりは、お年玉みたいなもんだがな」

 丸っきりの子供扱いである。
 だが深成はやはり気にせず、でん、と机の上に大きな箱を置いた。

「じゃじゃん! うさちゃんクッキー!!」

 ぱこ、と蓋を取ると、中にはぎっしりと黒うさぎ&白うさぎ。

「……これは凄い。だがな、これをどうしろと?」

「ちゃんと持って帰られるように、箱に入れてるでしょ」

「阿呆か。俺は一人だぞ。こんな大量に食えるかよ」

 箱はゆうに、人の顔ぐらいある。
 その中にみっちりと、これまたでかいクッキーが、ぱんぱんに詰められているのだ。

「ええ〜? 折角頑張って作ったのに〜」

 口を尖らす深成に、真砂はふと思いついたように言った。

「なら、早いがホワイトデーのお返しをやろう」

「えっ何々?」

 嬉しそうに、深成がずずいっと身を乗り出す。
 ちょっと仰け反りながら、真砂はジーンズのポッケからキーチェーンを引っ張り出すと、そこに付いていた一つの鍵を取った。
 それを深成の手に落とす。

「俺の部屋の鍵だ。それ持ってりゃ、いつでも来れるだろ」

 きょとんとする深成に、真砂は、とん、とクッキーの箱を叩いた。

「これ、食いに来い」

「あっ、なるほど〜」

 ぽん、と手を叩き、深成は納得した。
 が、すぐに首を傾げる。

「ん? でもこんな大事なもの貰っちゃわなくても、このクッキーをわらわのところに置いておくって手もあるよね?」

 むしろそれが普通だ。
 一人暮らしの男の部屋へなど、迂闊に入っていいものか。

 まして深成は小学生だ。
 真砂の性格から察するに、お子様な深成は安全な気もするが。