「美味しそう〜っ。凄いね、課長。三十分で、こんなちゃんとしたお料理出来ちゃうんだ」

「これぐらい、普通だろ」

 何でもないように言いつつ、真砂は二つのグラスに水を注いだ。

「いただきまぁ〜す」

 両手を合わせてから、深成がフォークに巻いたパスタを頬張る。

「美味しい〜〜っ! 課長、お料理上手だねぇ」

 満面の笑みで、ハムスターのように頬を膨らませる。
 ただの野菜ベーコンパスタに、ここまで嬉しがる奴も珍しい、と思いつつ、真砂もパスタを口に運んだ。

 しばしもぐもぐとパスタを頬張っていた深成が、ふと顔を上げた。

「あれ。そういえば、課長もお水なの? 遠慮しないで飲めば?」

「別に遠慮しているわけではないが……。ということは、お前は帰れなくなってもいいということか?」

 きょとん、としている深成をじっと見、真砂はキッチンに行って冷蔵庫から缶ビールを持ってきた。
 そして、ぷしっと開けると同時に、口をつける。

「さて。これでもう俺は、今日は運転できない。雨が止んでも、お前を送ってやれないということだ」

 にやりと言う。
 あ、と深成は時計を見た。
 次いで、窓に目をやる。

 そういえば、雷はもう聞こえない。
 静かにしていると聞こえるかもしれないが、とりあえずはおさまったようだ。
 が、まだ雨は酷い。

「折角怖いの忘れてたのに」

「何だよ、まだ怖いのか」

「嵐の夜ってさ、音が凄いし。雷じゃなくても、雷みたいな音もするじゃん」

「まぁ、確かにうるさくて眠れないことはあるがな」

「課長はいいよね。全然怖くないの?」

「お前が異常なんだ」

 ぶぅ、と膨れる深成を無視し、真砂は窓に目をやった。

「嵐が怖いんじゃ、どっちにしろ今日は帰れないな。ま、いいか。どうせ明日は休みだし」

 軽く言い、ビールを飲み干す。
 もぐもぐと口を動かしながら、深成は、じ、と真砂を見た。

「課長、泊めてくれるの?」

「この夜中に、嵐の中放り出してもいいのか?」

「それは嫌だ」

 即行で首を振る深成に、少しだけ真砂は口角を上げた。

「ま、俺もそんなことするぐらいなら、端から家に連れて来たりしないがな」

 ということは、泊める可能性を踏まえた上で、家に連れて来たということか。
 ……普通は家に行くということ自体が、お泊りに直結するものなのだが、生憎深成の頭には、そのような回路はないのだ。