そういえば、と、深成は家の中を見渡した。
 いきなりの来客であっても、その辺を片付けるとかいう行動はなかった。

 家の中は、綺麗に片付いている、というよりは、殺風景といったほうが、しっくりくる。
 必要最低限のものしかない感じだ。

「課長はさぁ、何で結婚しないの?」

 性格はともかく、外見は良いし、仕事も出来る。
 深成はよく知らなかったが、この若さで課長というのは、かなりの出世らしい。

「課長、モテるじゃん」

 カウンターにかけた両手に顎を乗せて、深成が真砂を見上げる。
 真砂が、ちら、と深成を見た。

「俺は余計なものは、側に置かない主義だ」

 ぼそ、と言う。
 深成はもう一度、部屋を見渡した。
 確かに、その言葉を如実に表した部屋だ。

「こんな広いお部屋に一人ぼっちだったら、寂しいじゃん」

「誰かいたほうが鬱陶しいが」

「お嫁さんも、余計なものなの?」

「必要ないな」

 素っ気なく言い、茹で上がったパスタをフライパンのソースに入れる。
 真砂がフライパンを大きく動かしてパスタ全体にソースを絡めると、良い匂いが、ほわ、と深成の鼻をくすぐった。

「美味しそう〜〜」

 この上なく幸せそうに、表情を緩めて深成が言う。
 真砂はそんな深成の前に、とん、とサラダを置いた。

「これを、そっちのテーブルに持っていけ」

「はぁ〜い」

 いそいそと言われたとおり、二つのサラダをテーブルに運ぶ。
 真砂は皿に分けたパスタをカウンターに置きながら、再び冷蔵庫を開けた。

「何か飲むか? とはいっても、うちに桃缶の汁はないが」

「お水でいいよ」

「まぁ、また酔っ払われても困るしな」

 パスタを運ぶ深成に、真砂はミネラルウォーターのペットボトルとグラスを渡した。
 そして、テーブルにつく。