「お邪魔しまぁす」

 廊下の突き当たりのドアを入れば、そこはリビング。
 右手にダイニングキッチンがある。

「適当に座っておけ」

 上着を脱いだ真砂が、キッチンでシャツの袖を捲りながら言う。
 深成はとりあえず鞄を置き、リビングの奥に目をやった。
 大きな窓から、夜景が見える。

「わぁ、凄い」

 無邪気に窓に駆け寄り、外を見る。
 その瞬間、稲妻が空を引き裂いた。

「んにゃーーーっ!!」

 光の速さで窓から飛び退り、ソファの後ろに隠れる。
 キッチンで手を洗っていた真砂は、呆気に取られてその様子を見ていたが、不意に吹き出した。

「はははっ。阿呆かお前は。雷が怖いから、俺の家に来たんだろうが。自ら窓辺に寄る奴があるか」

「だ、だって。わらわのお家からは、こんな景色見えないんだもん」

 ソファの後ろで、ふるふると震えながら、深成が言う。
 また涙目だ。

 見ているだけで、こんなに面白い奴は初めてだ、と思いつつ、真砂は冷蔵庫から適当に食材を取り出した。

「か、課長。何やってんの」

 ずりずりと床を這いずって、深成がカウンターの向こうから顔を出す。

「腹減ってるだろ。大したもんは出来ないがな」

 そういうわりには手際良く、とんとんと野菜を切っていく。
 じゅっとフライパンに放り込んだ野菜が香ばしい匂いを立てると、途端に深成の目が輝いた。

「美味しそう〜」

 くんかくんかと鼻をひくつかせる深成に、真砂は冷たい視線を向ける。
 涙目のくせに、食べ物を目にすると、恐怖も和らぐようだ。

「お前は嫌いなモンなんてないだろうな」

「もちろん。食べ物を嫌うなんて、あるわけないじゃん」

 えへん、と胸を張る。
 やっぱりね、と呟き、真砂は湯を沸かしてパスタを入れる。
 そして茹でている間に、サラダを作った。

「課長。男の人なのに、お料理上手だねぇ」

 深成が感心したように言う。

「そうか? 一人なんだから、自分でやるしかないだろ」