地下駐車場に車を入れると、ようやく深成は顔を上げた。

「ほれ、着いたぞ」

 エンジンを切り、荷物を持って車から降りる。
 しばらくきょろきょろとしていた深成も、急いで車から降りて、真砂の後に続いた。

 エレベーターで十階へ。
 十二階建てだから、結構上のほうだ。
 十階でドアが開くなり、深成は真砂の背中に貼り付いた。

「……何やってる」

「だってっ! 風凄いし、かかか、雷がっ!!」

 マンションの廊下は、言ってしまえば外だ。
 屋根はあるし、風向きが逆なので濡れはしないが、雷は聞こえる。

「課長のお部屋はどこなのっ! 早く行かないと、また雷が鳴るぅ〜」

 ぐいぐいと背中を押され、真砂は小走りで自分の部屋まで行く羽目になった。

 ロックを解除してドアを開けると、一目散に玄関に飛び込み、やっと深成は息をついた。
 そして、へたへたと、その場にへたり込む。

「そんなところで寝るなよ」

 深成を遠慮なく跨ぎ、真砂が部屋に入っていく。
 ようやく、深成は状況を理解した。

---あれれ、そういえば、うっかり課長のお家までついて来ちゃったな。まぁ、誘ってくれたのはありがたいけど。こんな雷の中、一人じゃ死んじゃうかもだし---

 状況を理解した、とはいっても、単に真砂の家に来た、という事実を認識しただけで、それがどういうことに結び付く可能性があるかまではわからない。
 もっとも真砂も、どういうつもりで深成を誘ったのかは謎だが。

「いつまでそこにいるんだ」

 奥に消えていた真砂が、ひょいと顔を出して深成を呼んだ。
 普通は玄関から動かないのは警戒しているからなのだが、深成の場合は、そうではない。
 素直に靴を脱ぎ、ててて、と廊下を歩いて行った。