「そ、そんなことはない!」

 いきなり声を上げ、六郎は、ぶんぶんと頭を振った。

「深成ちゃんは、まだそこまで奴のことを想っているわけではない! あの幼い深成ちゃんが、そんな色気づくようなことは、そうそうないはずだ!」

 ……一体深成はいくつなんだ。
 いろんな方面からの冷静な突っ込みを聞かないように否定し、六郎は、がば、と顔を上げた。

「諦められないとか、まだそういう段階ではない! そうだ、まだそこまで思い詰めることはないのだ! 幸い深成ちゃんの電話番号も手に入れたことだし、これからどんどん、私からプッシュすればいいではないか!」

 テーブルに手をついて身を乗り出す六郎に、千之助は引きつつも、慌ててこくこくと頷いた。

「お、おう。その意気さね。女子っちゃあ、押せば落ちるもんだぜ」

 いい加減なことを言い、千之助は、ぽん、と六郎の肩を叩く。
 入ってきたときとは打って変わって、六郎は晴れやかな表情になると、大きく頷いて頭を下げた。

「ありがとう! あなたの言うとおりだ! いや、何かすっきりした。さすがは妖幻堂だ。感謝する!」

 ぶんぶんと千之助の手を握り、じゃっ! と爽やかに手を上げ、六郎は踵を返す。
 千之助が呆気に取られている間に、足取り軽く出て行ってしまった。

「……旦さん。支払い、いいんかい?」

 しばし六郎の出て行った後を見送っていた千之助に、狐姫が声をかける。
 あ、と小さく声を上げ、千之助は、ぽりぽりと頭を掻いた。

「……しゃあねぇ。久々に面白いモン頂こうと思ったが、まぁいいさ」

 どさ、と椅子にかけ、煙管を咥える。

「俺ぁ何も言っちゃいねぇ。あいつがてめぇで、進むべき道を見つけたんだ。それで報酬を要求すんのぁ、お門違いだろ」

「もぅ旦さん、いい人なんだから」

 ごろごろ、と、狐姫が甘える。
 ふ、と紫煙を吐き出し、千之助は、ちょっと面白そうに、六郎の出て行った後に目をやった。

「けどあいつの今後、面白そうだな。どうなるかねぇ」

 ふふふ、と、千之助は狐姫と一緒に、若干意地の悪い含み笑いをするのであった。

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 ちらっと出た、『六郎、妖幻堂に恋の相談に行く』の巻き。
 相談っつっても、千之助の言うように、六郎は己で進むべき道を見つけたわけですが。
 ……と言うと格好良いかもですが、実際は勝手に暴走した、とも言える( ̄▽ ̄)

 プッシュとはいっても、はたして六郎に、そんなことが出来るのか? 何気に内気なくせにさ〜。
 しかも今回、何かあきちゃんにキャラが被っております。なかなか六郎も、想像が逞しいようで。

 さぁシェアハウスに、また一波乱ありか?

2014/06/26 藤堂 左近