「か、かたじけない」

 そそくさと、六郎は鼻の詰め物を交換する。
 千之助と狐姫は、そんな六郎を冷めた目で見つめた。

「あんたの話を聞いてると、その家にゃ、強敵がいるようだな?」

「ええ。見てくれが良いのは認めますがね、性格が、壊滅的に悪い男です」

「そんなに性格に難ありだったら、そんな心配せんでもいいんじゃねぇかい?」

「どうだろうね?」

 ここで狐姫が、何気ない風に口を挟んだ。
 持っていた扇で口元を隠しつつ、意味ありげに目を細める。

「見てくれが良いんだったら、性格が悪くっても、結構もてるもんだよ? 何ていったかね、つんでれ? とか何とか言ってさ、いっつも冷たい奴が、好きな子の前では優しかったりしたら、最近の女子は、ころっと参るらしいよ?」

「へぇ。狐姫、最近の女子の傾向にも詳しいな。太夫たるもの、全ての流行りを把握しておかないといけねぇってか」

「そうだね。流行り廃りには敏感になっちまってるからさ、自然とそういうものを頭に入れるようになっちまってるんだわ」

 六郎にはいまいちわからないことを言い、二人は笑い合う。
 狐姫が、ぽかんとしている六郎に向かって、ひらひらと手を振った。

「馬鹿にしつつも可愛がるなんて、まさにそういう男なんじゃないのかい? あんたのその幼馴染だって、まんざらでもないんだろ? だったらもう、諦めちゃどうだい?」

 いちいちもっともなことを言われ、六郎が固まる。
 千之助が、ちょい、と狐姫の服を引いた。

「おいおい。それじゃあんまりだぜ。お客さんは、諦めきれねぇから悩んでるんだろ?」

「う……」

 何を悩んでいるのか、と問われれば、そういえば何だろう、と思う。
 少し前に深成と会ってから、ずっともやもやが晴れない。
 それは、深成の気持ちがわからないからだ。

 しかし、それをずばりと聞く勇気もない。
 あのとき見た限りでは、確かに狐姫の言うとおり、深成も真砂のことを、まんざらでもないような態度に見えた。

 だがそれは、深成だからわからないのだ。
 六郎にだって、簡単に『一緒に寝る?』と言う深成だ。
 あの子の態度に、甘やかな感情が含まれることが、はたしてあるのだろうか。

 誰に対しても同じように接するため、深成の気持ちはさっぱりわからない。
 故に、六郎の悩みは増すばかり。

 だが深成を普通の女の子として考えたところ、真砂に抱かれて眠っても平気、ということは、深成は真砂のことが好きなのかもしれない。
 そして、真砂もそのつもりなのだったら、最早六郎の割り込む余地はないのではないか。
 さらに、ここまでわかっていても、まだもやもやしたまま、ということは、千之助の言うとおり、諦めきれないから苦しい、ということなのか。