ひとしきり鼻血を絞り出し、落ち着いてから、ラテ子はトイレから出た。
 すぐに捨吉が飛んでくる。

「大丈夫? 心配しちゃった」

「大丈夫大丈夫」

 言いつつ席に戻り、ふとラテ子は周りを見た。
 それぞれのBOX席では、皆おのおの好きなホストと楽しげに飲んでいる。

 そういえば、自分はまだ担当を決めてないなぁ、と思い、再びぐるりと店内を見渡す。

---う〜ん、真砂さんを見てしまうと、誰もぱっとしないわぁ。でもだからといって、真砂さんを選んだら、私の身がもたないし---

 ミラ子社長に対する真砂の態度を見ているだけで、身体中の血がなくなりそうだ。
 それなのに、それを自分に向けてやられたら、それこそ身体中のあらゆる血管が破裂するだろう。

---といっても、この子じゃちょっと物足りない……---

 目の前で甲斐甲斐しく水割りを作る捨吉を見る。
 優しいし楽しいが、捨吉ではいまいち気持ちが盛り上がらない。
 折角ホストクラブに来たのに、居酒屋のノリでは勿体無いのだ。

 うーむ、と悩んでいると、来店客の案内をしていた清五郎が戻ってきた。

「飲み物は、水割りでいいですか?」

 ラテ子の横に跪いて、おしぼりを差し出す。
 おお、とラテ子は目を輝かせた。

---そうだ、この人がいた。うん、この人なら大人な魅力満載だし、良いかも!---

 オーナーというだけに、他のホストたちより大人だし、物腰も落ち着いて、浮ついたところもない。

「そうそう、あなたはオーナーだってミラ子社長は言ってたけど、オーナーってお客の相手はしないものなの?」

 捨吉が作ってくれた水割りを受け取り、ラテ子は清五郎に聞いた。

「そうですね。基本的に、お客様のお相手はプレイヤー担当なので。ミラ子様のような上客のお相手は、ご挨拶がてらさせていただきますけど」

「そっか。じゃ、社長秘書の私のお相手も、して頂けるかしら?」

 水割りを少し掲げて言うと、清五郎は、ちろ、と捨吉を見た。
 捨吉が、さっと水割りをもう一つ作る。

「もちろん。私でよろしければ」

 爽やかに微笑んで、清五郎は水割りのグラスを、軽くラテ子のグラスに合わせた。