だが真砂は、ボーイに向かってぱちんと指を鳴らした。
 そして素早くミラ子社長のハイヒールを脱がすと、それをボーイに渡す。

「綺麗に拭いておけよ。それと、ストッキング買ってこい」

 はい、とボーイが去って行く。

「ちょっとちょっと。うちは真砂に頼んでるんやで」

 不満そうに言うミラ子社長に、真砂はふんと鼻を鳴らした。
 そして、いきなりがばっとミラ子社長を抱き上げる。

「俺がそんなこと、すると思うか?」

 ふふん、と笑うと、真砂はそのまま、店の奥の螺旋階段へと向かう。
 慌てるミラ子社長に、真砂は耳元で囁いた。

「とはいえ、裸足のミラ子を、放っておくはずないだろ。VIP席へ行こうぜ」

 螺旋階段の上は、VIP用の個室になっている。
 完全にホストと二人っきりで、好き放題出来るわけだ。

 もっとも個室の前面はガラス張りになっていて、店内が見渡せるので、そうそう如何わしいことも出来ないのだが。

「ストッキングは、俺がはかせてやるからよ」

 ぼそ、と言われたことに、ミラ子社長は仰け反った。
 真砂の腕から落ちそうになる。

「きええぇぇっ!! にゃにゃにゃ、にゃんてことを……」

「社長っ!! わたくし、トイレに行かせて頂きます!!」

 妙な叫び声を上げるミラ子社長に、ラテ子の叫びが加わった。
 叫ぶなり、ラテ子は物凄い勢いでトイレに飛び込んでいく。

---しゅしゅしゅ、出血多量になりそうだわ〜〜〜っ!! 何々、何なのあのホスト! ああああり得ない〜〜っ!!---

 からからとトイレットペーパーを盛大に鳴らしつつ、ラテ子は便座の蓋に座って上を向いた。
 くらくらしている。

 ミラ子社長にくっついていれば、結構こういうことになりやすいのだが、今日はいつもの比ではない。

---やっぱり今日のシチュエーションがマズいのね。いやでも、後学のためにも、しっかり経験を積まないと! ミラ子社長のVIP席も、しっかり張らないとね---