「もしもし」

『もしもし、七星?』

えっと、あの、会話が筒抜け…

「ご機嫌いかがですか、由良姐様?」

『貴方こそ元気そうで何よりよ』

ふふ、と笑った七星先輩は本当に嬉しそうだった。

「それで、どうかしたの?由良姐が電話をくれるなんて」

『そうね、依頼の進み具合はどうかなと思って』

依頼…そう言えば、さっき先輩は厄介だと言っていたっけ。その瞬間、先輩の表情が曇った。

「ごめんなさい、まだ見つかっていないの。見つかり次第連絡するから…」

『分かった。けれど気を付けてね』

「えぇ、大丈夫よ。…それで…あの、お父さんとお母さんは元気かしら?」

戸惑いがちな先輩。そうだね、先輩はこの世界に、兄妹二人で来たと言っていたもんね。

『雅人と美玲? あぁ、二人とも変わりないよ。特に雅人なんて、元気すぎて困るくらい』

「それしか取り柄のない人だから」

口では軽口を叩いているが、本当は心配で心配でしかたがないのだろう。それが声から滲み出ている。

『二人とも凄く心配しているよ、貴方達のこと』

「…私も北斗も元気だと伝えてくれるかしら? 愛してる、と」

『えぇ、勿論』

「それでは御機嫌よう、我がご当主様」

そう言って電話を切ってしまった。

「あら…これ、音量がマックスじゃない。会話が筒抜けだったわね」

私的な話なのにごめんなさい、と七星先輩は謝った。

「いえ、こちらこそ話を聞いてしまってすいませんでした!」

「いえ、いいのよ。貴女が謝ることは何もないわ」

ふわりと笑った姿はまるで花のようだ。

「ご両親とも元気そうで良かったですね」

「そうね、それが取り柄だから」

呆れたように笑う先輩に少し、安堵の表情が見えた。どこにいても、どんなに離れても、家族は家族なんだね。

「ケータイって、パラレルワールドにも繋がるんですね」

率直な感想を述べる。

「あぁ、これは由良姐、私達のボスが作ってくれた特製のケータイのようなものなのよ。機能はケータイ電話と殆ど変わらないわね。

といっても、普通はパラレルワールドとなんて繋がるはずがないのだけれど、ボスが持つ恐ろしいほど強大な魔力がそれを可能にしたの。本当に何でもアリな人よね。

さ、もう陽も落ちてしまうわ。暗くならないうちに帰りましょう?」

「あ、そうですね」

ぱっと見上げた空はまだ明るい紺色をしていたけれど、これも瞬く間にその色を濃くしていくことだろう。暗くなるのは、早い。