片手で無造作に髪を梳く、それだけでもう絵になる美しさ。

少し癖っ毛なキャラメル色の髪の毛が夕陽に輝き、どこか妖艶で大人な雰囲気を身に纏っている。

か、かっこいい…


「…何か、可笑しい、ある?」


艶っぽい瞳が私を捉えた。

その瞳に映った私の顔は何とも間抜けな顔をしていて、それで初めて自分が先輩をジッと見ていたことに気づいた。

恥ずかしさのためか、ボッと顔が熱を持つ。


「なっななな、何も可笑しくなんて、ななな、ないです!」


敢えて言うなら、貴方の色気が異常です。えぇ、異常ですとも!

顔も、瞳も、声も、先輩を構成する全てが妖艶だ。


高校生には、毒だ。猛毒だ。


「…そう」


変なものを見るような冷たい目で私を見ると、一つ溜息を吐き出して、弓道場の方を見た。

そして先輩は息を吸った。



「…七星!」

普段の北斗先輩からは想像できないような、ハッキリした声が辺りに響いた。

ハッキリしているけれどどこか優しくて穏やかな声。


って、七星先輩を呼んだの!?

それも呼び捨てで!?

驚きあまり私と乙葉は顔を見合わせた。乙葉も大きな瞳がさらに見開いている。

驚いていたのは私達だけではなかった。

周りにいた人たちも全員、その声に驚き後ろを振り返っては、北斗先輩を見て顔を赤くして倒れていく。男女問わず、だ。これは全滅しそうな勢いですぞ。


あぁ、北斗先輩の顔面は凶器だ。

美しいとは時に罪である。


「北斗?」

奥の方で七星先輩と思われる声が聞こえ、同時に足音が近づいてきた。