「…だって、僕、部活、皆、纏める、できる、ない」

「先輩が一番上手に絵を描くじゃないですかー。校長室や会議室に飾られている絵画だって北斗先輩作のものなのにー」

「…けれど、僕、部長、する、ない。乙葉、頑張れ」

「もう、先輩って本当に自由ですよねー。ずっと思っていましたけどー」

北斗先輩は乙葉の発言など聞こえていない振りをして、こちらに顔を向けると、

「…僕、北斗。よろしく」

呟くような声で至極簡潔な自己紹介。

「あ、私、華原月子です。よろしくお願いします!」

ガバッと頭を下げる。

顔をあげた時にはもう既に先輩は私の方など見ておらず、何か別のところを見ているようだった。

「で、先輩はどうしたんですかー?人混みが大嫌いな先輩が、こんな人の多いところに来るなんてー」

「…少し、用事、ある、だから」

北斗先輩の眼鏡が信じられないほど分厚くて、北斗先輩の瞳が一体何を捕えているのかは分からないけれど、でも遠くの何かを見ているらしい。

目線とともに動く顔を見て、思った。この仕草、もしかして。


「…どなたかお探しなんですか?」


戸惑いがちに聞いてみると、北斗先輩は一瞬顔を強張らせ、すぐに頷いた。


「…なぜ、分かる」


どうやら驚いて固まったらしい。別に、そんなに驚くことではなかったと思うけどな。

「そんな顔、なさってたから」

少しの間ジッと私の顔を見ると、視線をそらしまた探し始めたようだ。他人にはあまり興味がないらしい。そういうところは藍羅先輩に似ているのかもしれない。

しかし北斗先輩は、人並み以上に言葉が少なく、且つ無表情なので掴めない。先輩は今何を思っているのだろう。


「…いる」

微かな声が聞こえた。