「どこにっ向かって…っハァ…っ、は、走ってんのっ?」

私を引っ張って乙葉の走るスピードが速すぎて、息は簡単に切れる。

乙葉…速すぎる!何これ、陸上部並みじゃないですか!

乙葉って本当に文化部なの?文化部と帰宅部でもこんなに差が出るもの?!


「着いたら分かるからー!」


あたしの問いににっこり微笑んだ彼女の息は切れてはいないらしい。

恐るべき体力。運動部とだって渡り合えると思えるほどの運動神経。

乙葉、恐るべし…


乙葉に引っ張られて来たのは、何故か弓道場。それも人集りができている。

男女問わず中を見つめてはキャーキャー叫んでいる。

「「デューク様ぁぁ!!」」

「「七星ちゃーん!!」

黄色い悲鳴が飛び交う。


あまりの声量に、あたしは両手で耳を塞いでしまった。

何だ、これ?


「お、とは…さん…?」

ゆっくりと隣で可憐な笑顔を見せる我が幼馴染に問いかける。

一体、どういうつもりなのだろう…?

「ここに来たかったのー!」

「え…?」

ますます訳が分からない。どういうこと?

不思議しそうな表情を浮かべる私に、乙葉は笑って答えた。

「実は中にねー、デューク先輩と七星先輩がいるんだよー」

興奮君の乙葉に、

「デューク先輩と七星先輩?」

デューク先輩は分かるけど、七星先輩ってどなた様?

そう口にすると、固まってしまった。


「…まさか、知らなかったのー…?」

ゆっくり頷いた。

だって、先輩との繋がりなんて 、藍羅先輩くらいしかないんだもん。


「…分かった、説明するからー、ちゃんと覚えてねー!」

こうして乙葉大先生による、七星先輩と、ついでにデューク先輩に関する特別講座が始まったわけであります。