「ありがとう」

その言葉に、どれほどの思いが込められているのか、ちゃんと理解していますから。


「必ず、成功させましょう」

「あぁ」

先輩には笑顔が似合う。願いが叶うならば、いつまでもどんな時でも先輩には笑顔でいてほしい。

「今日中に連絡するよ。ルナ・プリンシアホールに。演奏会をしたいと」

先輩はそう言い残して帰ってしまった。


まさか、ルナ・プリンシアホールで演奏する日がくるとはね…

あー、なんだかもう今から緊張してきた…けど、楽しみ…!

っと、今日はもう帰ろう。鞄を肩にかけて教室を出ようとした瞬間、

「月子ー!」

名前を呼ばれた。

パッと辺りを見渡せば、

「え、乙葉?」

乙葉が走って来た。


「ちょっと来てー!」

「どこに?って、うわ!」

乙葉は私の手首を掴むと、そのまま走り出した。速い。

「後で説明するからー!」

「えぇぇぇえええ!?」



二人で人気のない廊下を全力疾走。

先生に怒られるとヒヤヒヤしたが、その心配はいらなかったことに気がつく。だって先生達は乙葉には怒れない。何故なら先生達の弱点は、乙葉の"目ウルウル攻撃"だからだ。

これには誰だって勝てない。

か弱い美少女が、目を潤ませたら、それ以上怒ることなんてできっこないでしょう?おまけにあの乙葉だもん、反則的に可愛すぎるんだよね。

涙腺を自由に操る乙葉は、それを故意にしてしまうのでタチが悪い。これが"悪戯っ子乙葉"。時々見せる、小悪魔な彼女。

でも彼女曰く、これは最終手段だからいつもは使わないとのこと。寧ろできる限り使いたくないらしい。

そう言えばここ数年は"悪戯っ子乙葉"を見ていない。