「先輩はどうしたいのですか?

音楽をする者なら誰もが一度はそこで演奏をすることを夢見、憧れる、あの国内最高峰、世界トップレベルのコンサートホール、ルナ・プリンシアホールで歌いたいのですか?歌いたくないのですか?どっちなんですか?」

藍羅先輩がここまで悩むのも、慎重になるのも、無理はない。寧ろ当然のことだ。ルナ・プリンシアホールは憧れであるが、否、だからこそ、そこで演奏をすることはとても畏れ多い。

だけど、先輩は本当は思ってる。不安もあるけれど、畏れも抱いているけれど、それ以上に、ずっと思ってる。

「あたしは…」

直接聞いたことはないけれど、でも、

「あたしは…」

思いは、確かに伝わってくるから。だから、

「あたしは、歌いたい」


自信を持ってください。

私はその答えに微笑んだ。それでこそ藍羅先輩だ。


「あー、後輩に勇気付けられるなんて」

自分に呆れた、とでもいうように笑う先輩に、私は笑いかけた。

「お互い様ですよ」

いつも先輩から勇気を貰ってるのは私の方だ。


詰まる所私達は、

「家族みたいなものですね」

私が笑うと、一瞬呆気に取られたような顔をした先輩だったけれど、すぐに笑顔を見せてくれた。目を細めてクシャっと笑った。

分かってますよ、先輩。本当は、泣きかけたということを。それを隠すために頑張って笑顔を作ったことも。

先輩は嘘をつくのが苦手なんですもん。全て顔に出てますよ。そういうところさえも可愛らしくて、憧れちゃうのですが。

きっと、先輩は嬉しかったんですよね、家族って言われたことが。

先輩にとって"家族"というのは、とてもとても重いもので、憧れる存在だから。

でもね、私も嬉しかったんです。先輩が私の言葉を笑顔で肯定してくれたことが。