「せ、先輩は、か、かぐや会館で演奏会をするんですか?!」

「しないか、と聞かれただけで、返事はしていないのだがな」

かぐや会館から演奏依頼が来るような人達は、皆一流の演奏家だ。ということは、先輩が一流の歌手だと認められたということなのだろう。私としても鼻が高い。

有名なコンクールをいくつも経験してきた私だけれど、ここでは演奏したことがない。海外の有名なピアニストが演奏会を開いたときに、一度だけ見に行ったことがあるけれど、とても素晴らしいホールだった。もう、そこら辺のホールとは格が違った。響き方から、客席の椅子まで、何もかもが違った。

国内最高峰のコンサートホールである、あのルナ・プリンシアホールで演奏するなんて、夢のまた夢だと思っていたのに、それが実現するかもしれないだなんて…!


「で、月子はどう思う?かぐや会館で演奏会をすることを」

どう思うって…

「先輩はどうしたいんですか?」

私の切り返しに驚いたのか、先輩は大きな目をさらに見開いていた。

「あ、あたし?」

「そうですよ。大事なのは、伴奏者である私がどう思うのか、ではなくて、歌い手である先輩がどうしたいか、です」

「一緒に演奏するんだ、伴奏者の意見だって…」

あぁ、先輩は優しい。ここまで伴奏者に、それも後輩に気を遣う歌い手なんて、先輩なんてなかなかいない。

「私は、例えどんな場所であろうとも、先輩が歌われるならその伴奏をします」

藍羅先輩の歌に、私以外の人の伴奏だなんて、そんなの嫌だ。一緒に演奏したいんだ。少し欲張りだけれど、でも、これだけは、先輩の伴奏者だけは、譲りたくない。

「先輩はどうしたいのですか?」

「あ、あたしは…」

先輩にしては、歯切れが悪い。いつもなら、サバサバ、ズバズバと決めるのに。