それからパーティーが近付くにつれ、スルスの皆は試作と試食を何度も繰り返し、俺はそのサポートを行った。

本社からヘルプで来てくれる調理師のおじさん二人にも、メニューはもちろん当日の流れを確認してもらっている。


スルスに三日置きほどのペースで足を運んでいると、廊下で九条さんと会うことが時々ある。

そういう時は、ほんの僅かな時間だが、その場でたわいない立ち話をするのだった。


一度、その場面に専務が出くわしたことがあったのだが。

また何か嫌味を言われるかと思いきや、彼は俺達から顔を背けると何も言わずに去っていった。

そんな彼の様子が妙に気になったが、忙しさでそのことはすぐに忘れ、気が付けば本番を二日後に控えていた。


この日も様子を見に来ると、春井さんも入念に準備してくれているようだ。

……が、どうやらパーティーではなく通常のランチの材料が足りないらしい。

休憩中にその買い出しに向かった彼女が戻ってくるのを待っていたい気は山々だったが、俺も本社に戻らなければならない。



「じゃあ、俺はそろそろ行くから。春井さんによろしくね」

「はーい。お疲れ様です」

「雨降り出したから気をつけてね、椎名さん」



三人と挨拶を交わしスルスを後にした俺は、いつものようにエレベーターを待つ。

すると、いつかと同じく休憩コーナーの方から「椎名さん」と呼び止められた。