座席に着いた瞬間に、目を固く、ギュっと瞑ってしまった。
 まだ……粘着質な恐怖は私を支配していたのだ。
 目を開けば……そこに居るであろう隼人くんをマトモに見ることができない。

 心の中では早く隼人くんに相談したいのだ、しかし、脳裏にこびりついた考え……隼人くんが幻覚かもしれないという私の頭を掠めた考えが行動の邪魔をしている、隼人くんと顔を合わすのが怖い……。

 矛盾した思いが、私に目を閉じさせてしまっていた。
 バスに乗ったのはいい、座席に座ったのもいい、これで……隼人くんの姿が見えるようになり、これからのことを相談できるのに……。
 なのに、私はなかなか目を開けることが出来ない。

 本当は……こんなことで時間を消費している場合ではない。
 早く隼人くんと相談して……少しでも早く、次の行動に移らないといけない。
 ……勇気を出して、目を開けないと!

 強く閉じた目を、ゆっくりと開けていく。
 じわっと瞳に光が入り込み、少しずつ景色が見えてくる。

 ややぼやけた景色が輪郭を取り戻していく――。
 私の目の前には、バスの窓があり、外の景色が見える。
 まだ停車しているバスの外には駅前を歩く人の流れが見えて、タクシーの客待ちの行列が見えた。
 少し焦点をずらすと、窓に映る私の姿が見えて、その背後に――隼人くんの姿が見えた。