私は尻尾を降りながら
道を歩く

どうしよう?
今日は何処へ行こうか?

ふふふっ
決めるのもまた楽しみ

昨日はちょっと
遠くまで散歩したんだよね
だったら今日は久しぶりに


学校でも行こうかな?


・*・*・*・*・*・*・*・

あぁ懐かしい…
私が人間の頃に通った場所
今では無意味なただの人の集まる所

『あ、猫…』

聞き覚えのある声
その声の主は私の元へと
やってきた

『可愛いー!』

声の主……いや元クラスメイト
と言った方がいいかな?

猫が私だなんて思いもしないだろう
いや、そもそも皆に
私の記憶なんてないんだよな


天涯孤独


その言葉はまるで
私のためにあるようだ
猫の私は1人で
食べて、寝て、生活して、そうやって
生きてきたんだ

その頃から人と関わるのは
もうやめたんだ
私は人間ではないから
関わると人間だったあの頃が懐かしくて


人がどんなに近づこうが
あの人間だったあの頃が戻るわけではない
だったら…悲しくなるくらいなら…


天涯孤独でいいんだ


寂しい
そんな感情猫に持てるんだなって
そう思った

嬉しい
そんな感情も猫に持てるんだなって
そう思った

猫だって人間と同じなんだな
私は猫
だけど人間だ
孤独で寂しくそして可哀想な
無様な猫だ


なぜ猫になったのか
今もまだわからない
なぜ皆から私の記憶が無くなったのか
涙が出るほど考えたさ


でもわからないんだ


何故だかわからないんだ
逆に問う
何故私に記憶があるんだ?
こんなのなければ
こんなにも悲しい気持ちにならないのに

人に忘れられるのは
酷いものだ
猫になって皆に会うのは
辛いものだ

いくら話そうが
その声は届くはずもない
いくらじゃれようが
私を思い出すわけでもない
結局
私はいらない記憶を持ちながら
あの頃には戻れず
ただただ猫の姿で
この崩れた世の中を過ごすのだ



それでも最近は楽しい
何でかって?
私にもよくわからない
ただ皆と会うとあの頃みたいで…

あぁ、私は考え方を間違えたんだ
皆と会うのは
悲しいことではない
楽しいことだ
あの頃には戻れないけど
それでも
笑う皆が楽しそうで…まるで
あの頃に戻ったみたいなんだ


天涯孤独


確かに私は孤独で
寂しい人間
いや、猫だ
でも寂しくても楽しい事だってあるんだ
そう教えてくれたのは
紛れもない皆
ありがとう……


・*・*・*・*・*・*・*・


今思い出したことがあるんだ
私は弱かった
人見知りで上手く人と話せない
そんな私は
沢山の友達や歳上の人
そんな人と巡りあったのだ
いや、言い方が違う
巡り会わせてくれたのだ
誰が?
紛れもない皆がだ
やはり私にとって皆とは
かけがえのない大切な人なんだと
改めて感じた


・*・*・*・*・*・*・


あぁ、長く語りすぎたね
私がピクリともしないから
君が不思議がってるね
ごめんね?
そう言って私はまた尻尾を降りながら
散歩しに去るのさ

運動場では体育をやっている
寒そうだな
みんな半ズボンで元気だね
あの中に私もいたんだな
ついこの間までだけどね

お昼頃にチャイムがなった
どうやら給食みたい
いい臭いがする
もう給食の味なんて忘れたけどね

もう帰りだって
私はずっとここにいたんだな
バカみたいだな

『あー!猫だ!猫、猫!』

この声……
仲のいい子だ
正確には良かった子だけど

『黒猫は不吉だよー?』

その友達が冷静に言った
確かに私は黒猫だ

不吉だから何ですか?
寄るなって?
私は元々人間だけど?

そう言いたい
イライラしてきたから逃げました


夕暮れ
1人ポツンと歩く道
朝みたいに尻尾を降りながら
帰るあても無いけれど

『あ、猫……チッチッおいで』

後ろを振り返る
何故かわからないけど
私は恋をした
いわゆる一目惚れってやつだ

相手は人間
猫が人間に恋をしたんだ
しかもこれが人生での


初恋だ


笑えることだろ?
ふふふっ
君の目が私を見る
ニャーと鳴いて君に近づく
優しい声で君が

『お前…1人?俺も1人なんだよな…』

呟いたんだ
悲しくなった
理由が違くとも孤独なのは同じ
もう一度ニャーと鳴く
そして


‘天涯孤独…私はその通りでもね
君には希望があるよ
だから自分を捨てないで
私は人間だけど…猫なんだ’


そう語りかけた
例えニャーとしか言えなくても
気持ちは通じるから
そう信じてるから

君は私を見て
笑った
そして何処かへ行ってしまった
私の初恋は切ないものだった
でもそれでいい
君が猫にならないなら
それでいいんだ


・*・*・*・*・*・*・


もし
皆から私の記憶が無くなったら

そして私には
皆の記憶があり

さらに猫になったら
私はどうするんだろう?


・*・*・*・*・*・*・


天涯孤独


ちょっとだけこの言葉が好きだ
何故かはわからない
でも、なんか好きだ

私は今日も
尻尾を降りながら
道を歩く


・*・*・end・*・*・