――『…あなた』



病院のベッドで横たわる弱々しい妻に、私は泣きながら寄り添っていました。



『…なんだい、智子(ともこ)


『…私が死んでも、他の女性と結婚したっていいのよ』


『……何を言い出すんだい』


『私、そんなことであなたを責めたりしないわ。…あのね、私は…あなたに幸せになって欲しいの』


『智子……』


『だから自分を縛るような人生は送っては駄目よ。…私なら、ずっとあなたのそばにいるから』


『…ああ、分かったよ智子』


『約束してちょうだい』


『もちろん…約束するよ』


『…良かった。

ねぇあなた。


私、あなたと出会えて、結ばれて、結婚して、本当に幸せだったわ。


子供……作りたかったわね。

それだけが心残りよ。


それと、あなたを一人残して先に行ってしまうのもちょっぴり辛いわ。


でも大丈夫。


私はいつでもあなたのそばで見守っているもの。

あなたの幸せを願って。



……あなた、愛してるわ』


『……私も愛してるよ』




――「そうして妻は笑顔のまま息を引き取りました。……でも私は、妻との約束を果たすことは出来ませんでした」



そしてまた、横山さんは切なげに微笑んだ。

私は唇をきゅっと噛み締める。




「…妻以外の人を、愛することが出来なかったんです。自分を縛るような人生は送ってはいなかったはずですが、他の女性を愛することなんて出来ませんでした」




奥様のことを心から愛していたんですねぇ。


亡くなっても、ずっとずっと、これからも永遠に

奥様のことを愛していらっしゃるのでしょう。



横山さんにとって、奥様以外なんて考える事すら出来ないのでしょうねぇ。



……本当に、素敵なご夫婦です。