「私にはただ一人の妻がいたんです」




そう言った横山さんは、執事の手袋を外して私に左手に付けている指輪を見せて下さった。



……なんとなく思ってましたが、やっぱり結婚してらしたんですねぇ。




「でも妻は20年前に病気で亡くなってしまったんです」


「……え」




そ、そんな。


…私、なんにも知らなかった…。




「私は本当に妻を愛していたんです。…私にとって妻は、唯一の宝物でした」




そう言う横山さんの儚げな表情から、それが本当なんだと分かる。


横山さんの奥様なんて…きっと絶対、良い人に決まっていますね。




「彼女は本当に優しい人でした。亡くなった日も、彼女は私のことばかり気にかけてくれていて…」




横山さんの笑顔は切なくも見えるけど、なんだか穏やかそうにも見える。

私はゆっくりと頷き、横山さんの話に耳を傾けます。