もう少ししたら何か今度は食べれるものを用意しよう、と思って少し…いや、かなり熱い温もりにそっと身を任せて目を閉じた。
「………あたしがいるから、寂しくない………」
記憶が落ちる寸前に口からこぼれた言葉は、いつもあたしが願望していた言葉。
龍翔side*
「………んん」
朦朧とする意識の中、甘ったるい女の声が聞こえた。
………朝からうぜぇ。
腕にかかっているわずかな重みを感じ、戸惑いもなく振り落とそうとしたとき。
「………ぱ、…」
ギュッと何かが俺の腰を締め付けた。
身勝手なことをする女に苛立ちを覚えゆっくり目を開けた。
でもそこにいたのは……。
一晩だけの見知らぬ女などではなく俺に抱き付いて俺の胸に顔をうずめている莉々香だった。
「………は?」
かすれた声が漏れる。
……頭が痛てぇ。
なんでこいつがここに。
ひどく体のだるさを感じている中、疑問に思うことがいくつもあったが…。
自分の全身に貼られているモノを見て、自己解決ができた。
もう既にぬるいだけだがシートが額だけじゃなく、首筋にも肩にも無駄に貼られていて。
自分が熱に侵されていたことを思い出した。
……体だりぃわマジで。
伸びてきた髪をかきあげ、俺に抱き付いて離れない莉々香に視線を移した。
何を思っているのか、安らかな表情をしている。
「……ったく。お前が寝てどーすんだよ」
俺にいつも嫌悪の視線しか向けなかったこいつの新たな一面が見れた気がした。
つい最近、莉々香が熱を出してぶっ倒れたときはただ死にそうな顔しやがってて。
いつか俺が抱いた日には無表情で眠り続けていた。
こんな莉々香の柔らかくて優しい顔を俺は見たことがない。
これからも見ることがないかと思っていたが。
………本当に熱サマサマだ。
俺に風邪をうつした原因であろうこいつを、そっとさらに自分に近づけた。
抱きしめ返すことは出来ない片腕の行く場を探しながら、もう片方の腕に乗っている莉々香の頭をただ一度だけ撫でた。
このままこいつをここに閉じ込めて
俺だけのものにして
誰の目にも触れさせないことが出来たのなら
どれだけ俺は幸せだろうか
しかしそんなことは不可能で
可能なら、とっくにこいつの自由を全てしばりつけて
ただ俺にだけ視線を向けさせて
ただ俺だけにその体を開かせ
ただ俺だけに愛を囁かせるのに
俺だけがこいつに触れられるのに
…………不可能に決まっているだろう
悲鳴を上げている体に気づかぬふりをして、目を閉じた
「一人じゃない」
ただ俺はその言葉を吐いてほしいだけなのに
なぁ、俺は__________優しくなんかはない
さっきのためらいが嘘のように消え、莉々香の頬に手を添えた。
そして_______寝ている莉々香に、口づけた。
「誰が他の野郎なんかに渡すか」
麗しき眠り姫は、まだ起きない。
何度口づけても、まだ起きない____________。
眠り姫は王子のキスで目を覚ます
龍翔side*END
莉々香side*
暖かい温もりを求めて身を寄せる。
んー、と低い声が漏れた。
まどろむ意識の中心地いい暖かさに触れてそっと微笑む。
「………りりか」
「…………ん」
「…………おい、莉々香」
「ん…」
ぎゅっと抱きしめる。
すーっと息を吸った時。
あれ。
違和感を感じた。
抱きしめている"もの"を手で触れると明らかに熱を持っているモノ。
抱き枕じゃない。
…………げ。
と思って目を開けるとそこには……目を開けてあたしを見ている龍翔がいた。
自分が今どんな状態なのかを理解する。
思いっきり龍翔に抱き着いていたのだ。
「…………お前病人に何してくれてんの?」
ダルそうに息を吐きながらただあたしを見ている龍翔。
ただ申し訳なさが込み上げて来てゆっくりと離れようとした。
でも……
「……しばらくこうしてろ」
背中に手を回されて、龍翔に引き寄せられた。
……は?
龍翔の胸元にがっちりと顔を押し付けられる。
「ぐ、ぐるしっ」
軽くもがいてみても力は緩められない。
「………傍に居ろよ」
………なんだそれ。
「…………それじゃ二度寝する……」
龍翔に流されてまだ重たい瞼を閉じようとするあたしもあたしだ。