そして車を走らせ、聖龍の倉庫へと着いた。







車をそこらへんのスペースに置き、急いで倉庫へと向かう。








「……あ、咲哉さんっ!」






「ちわっす!」






聖龍の面子にも軽く手を上げるだけで、二階へと続く階段を登った。








登った先にはソファーに腰掛けている聖龍の幹部たち。








龍翔だけが見当たらなかった。









「咲哉さんっ!」







「おい、冬夜を呼ぶなんて一体何があった?」






「莉々香ちゃんが、倒れて呼吸がまだ荒いままで…!」








…………は?









「何でさっさと病院に連れて行かない!」








思わず叫んだところで、晃から厳しく言われていたことを思いだした。








莉々香のバックについている親が、ずいぶんヤバいと。








俺にわざわざ言ってくるぐらいだ。本当にヤバいんだろう。









_______誰だかは知らないが、もしも正規の病院に行けば…聖龍がその親に潰される可能性もあるし、問題が起こる可能性がある。










ならそれをこいつらは汲み取ったってことか。








……察しがいい奴らだ。









なんでわざわざ冬夜なんかを呼び出したのか理解できた。








「……わるい。冬夜、もう来るはずだから」







驚いた顔をしているこいつらに申し訳なく思って謝りを入れると、下がガヤガヤとうるさくなった。








……………お出ましか。









いつぶりに冬夜には会うんだろうか。









ゆっくりと、階段を見据えた。

















でもそこから出てきたのは冬夜ではなく_______。








「…………あ、咲哉くんいたぁ」










なんと、魔女であるサラさんだった。










「……………は?」








思わず声が漏れてしまう。









………何で、彼女がここに________?











豊満な体のラインがくっきりと分かる服を身にまとっていて、高いヒールを履いている彼女。








胸はバックりと開いているし、短いスカートから足が惜しげもなくさらされている。








以前会った時よりも、確実に綺麗になっていた。









そんな彼女はヒールの音を立てながら俺の傍へと寄ってくる。










「さぁくぅやくーんっ!」









そして、俺の腕を取って自分の腕に絡ませた。









…………え。










「聞いてくれる?冬夜、ちょっとあたしが顎蹴ったぐらいで気ぃ失ったんだけど」









でも初めて冬夜に蹴りが当たったんだけどね、なんて平然と言っている彼女。









あの冬夜に蹴りを入れて無事でいられるのは、彼女ぐらいだろう。









「な、なんでサラさんが……」








「だから、冬夜の変わり?大丈夫、暫く目が覚めないように気ぃ失っている上に睡眠薬打って来たから。下手したら呼吸止まっちゃってるかもだけど」









くすり、と笑った彼女に思わず見とれてしまう。







だが言っていることは本当に物騒だ。








いつか、冬夜が彼女に拳銃を突き付けられたと現実味のないことを愚痴っていた気がした。









「________で?要件って何?」









………………………すごく、めんどくさいことになってきた気がする。








しかし今はそんなことに気を取られている場合じゃない。一刻を争う事態だ。








「…………誰か、闇医者を知りませんか?」









こう問うと、んー?と考え出したサラさん。









「…………知ってるケド、高くつくよ?闇医者じゃないと駄目なの?免許ちゃんと持ってるけど、あたしのツテで闇医者まがいな事をする医者紹介しようか?」










……………医者にまで人脈があるなんて、本当どこまで凄いんだろうか。









「まぁあたしの名前を出せば、どこの病院も何でもやってくれるからね」








ホッと一息つき、彼女が腕に絡んだまま後ろを向く。








この手を振りほどくほど俺は立場が強くない。







たかが族の副総長を以前やっていたというだけで、今は教師。







裏の世界では強い人脈がいくつかあるだけで、俺自身に権力があるわけではない。







だから彼女を怒らせたらひとたまりもない。








唖然とサラさんを見ている4人に声をかける。









「……莉々香と龍翔呼んできて。で、車用意して乗せて」








「…………莉々香?」







ぽつり、と横でサラさんが呟いた。





















「………知ってるんですか?」







「女?男じゃないの?」







……………あぁ、なるほど。









「……あー、姫って制度知ってますか?その姫がどうやらヤバいことになってしまってるらしくて……」









「……あー、姫とか聞いたことある。騎王のお姫様疑惑の子、今ネットでめんどくさいことになってるわよねー」









…………………騎王とは、聖龍と同盟を結んでいる暴走族。








最近確かにインターネットがそれで持ち切りの気がした。







あるとんでもない美少女を中心に様々な男が争っているらしい。








その美少女は騎王の姫と称えられ、騎王のほうもまんざらではないとか違うとか。









でも実際は姫は別にいて、騎王の幹部たちが通っている学校の生徒会に所属している子らしい。








ネットで回っている写真を見たけど、サラさんと同じようにゾッとするほど整っていた。









「あの件で、あたし今マスコミに圧力かけてるんだけどねー?ちょっと遅かったかもしれない。今話題の三角関係疑惑ーってタイトルで色々流れちゃってるみたい」









騒がしく乱さないでほしいのに、と彼女は薄らと唇に笑みを浮かべた。









この世とは思えないほど美しい容姿。









「ま、そのお姫様とやらをちょっと遠いけど中央の繁華街近くのでっかい病院に運んでくれる?それで受付で副院長呼び出してくれればいいから」









「………いや、でもそんなこと…」









「大丈夫。名刺渡しとくから、それをその人に渡してくれる?ちなみにその副院長、若くてイケメンだからね?おじさんとかありえないし」









訳の分からない弁解を始めたサラさんは、サラさんの後ろについていた黒いスーツを着た男に顎で指示を出した。







すると、すっと出された名刺。







そこにサラさんはチュッと口づけた。









べっとりとしたグロスが付いた名刺。









「サイン……書く必要ないから、これで本物のあたしの名刺って証明ね」










そしてサラさんは俺の腕から離れ、一番手前側にいた雅に近づいた。












「これ、渡してくれる?」









すると遠慮がちに頷いた雅。









「………やだ、あなた何か可愛いねわねぇ?」








メガネで、顔は中世的なイケメンだが常に無表情の男に可愛いなんて言った女は彼女が初めてだと思う。













「ね、今度あたしのclubに来てみない?パスあげるからさ」









にっこりと雅に笑いかけたサラさん。






心なしか、雅の顔が赤くなっている気がした。














「………咲哉さん!」








そんな二人をボーっと見ていると、ふと声をかけられた。







視線をそちらに向けると……莉々香を抱えた龍翔と、その傍に居る諷都。









サラさんも龍翔の方を向いた。









「…………へぇ。暴走族ってイケメン揃いなのねー」









初めてサラさんを見た龍翔は、驚きに満ちた顔をしていた。










そしてまだ手に持っていた名刺を雅の膝に置くと、俺の元へ戻って来たサラさん。












「あの金髪、名前なんて言うの?」








なんて龍翔を気にするそぶりを見せながらもちゃっかりと俺の手に腕をからめる。







それを見た龍翔と諷都は当然のごとく驚いていた。










「………龍翔、挨拶」







龍翔はサラさんの事を知っているのか、俺のこの言葉に何も言わず、大事そうに莉々香を諷都に預けてこちらへ来た。











莉々香を受け取った諷都は、心なしか顔を歪めていた。








でもしっかりと横に抱いている。










「……聖龍の総長してます、龍翔って言います」









軽く頭を下げた。







ふーん、と言ったサラさんは一歩龍翔に近づいた。







腕を組んだままの俺も、自然と前に出てしまう。










「………あの子、あなたの女なのよねぇ?」








「………はい」









サラさんは、背の高い龍翔を見上げすっと片手を出した。









そしてその手を…龍翔の顎に近づけた。








龍翔の喉が、ごくりと鳴る。









そしてその手は強く龍翔の顎を掴んだ。










「あたしが誰か分かっているなら、何をすればいいか分かるでしょう?」









そして妖艶に微笑む。








顎を掴んでいる手は、ゆっくりと首筋を下がっていく。













そして、首に手をかけた。








ゆっくりと力が込められているのか、龍翔が眉間にしわを寄せた。








重たい空気がこの部屋にのしかかる。










「あたし、あなたの顔……咲哉くんと同じくらいタイプよ?」









そして次の瞬間。








ぐっと片手が龍翔の頭部に回ったかと思うと。








勢いよくそのまま引き寄せた。









「……っ」







咄嗟に龍翔は抵抗してしまったのだろうが、サラさんは全く気にせずに大の男をも上回る力で引き寄せた。










そして__________。













「………ってぇ!!」






なんと、俺の腕も引き寄せ、頭に強い衝撃が走った。











「……あれ?おかしいわね…。唇同士がくっつくはずだったんだけど」









そんなサラさんの呟きなんて聞こえず、ただ痛みが走る頭を抱える。








痛みに耐えながらも顔を上げると、なんと龍翔も頭を抱えていた。


























「さ、サラ様!!」








黒服の大きな叫びが耳に入る。








「………イケメン二人のキス、あたし見たかったのにぃー」










……………まじでかよ。







皮膚がキレたんじゃないかというほど疼いている頭にそっと手を当てた。










確認すると、血はついていなかったのでとりあえずはほっとした。











しゃがみ込んでいた体勢からゆっくり起き上がる。











龍翔は未だ頭を抱えていた。







どうやら龍翔の方が被害が大きいようだ。












「……咲哉くん頭大丈夫ー?」











にっこりと笑いかけてきたサラさんにほんのりと殺意が湧いた。








「…………まぁ俺は何とか」











でも強く出れないからもどかしい。







それにまだ疼きは当然おさまるわけがない。











………生きてるかは分からないけど、とりあえず冬夜に報告だなと覚悟を決めた。






















裏の世界の魔女がひと騒ぎを起こしたものの、何とかそのあとはスムーズに莉々香を病院に運んで。









俺は聖龍の倉庫でサラさんの迎えに冬夜が来るそうなので、それを待っていた。








ちなみにサラさんが冬夜に打った睡眠薬と思われるものは、事前に誰かが栄養剤にちゃんとすり替えていたそうだ。








素人が……特にサラさんなら、睡眠薬を打てば昏睡状態に陥らせる可能性も十分にあるのだ。












やっとこの人から解放されると思うと、体の底から力が抜けた。










冬夜の苦労は気がしれないな、と軽く笑った。









「ねぇ、咲哉くんー。あたし何でもするからさぁ、ここから逃がしてくれない?」









それでも冬夜が来るまで後数十分。








俺は我儘女王様の相手をしなければならないようだ。










「魅力的なお誘いですが、遠慮しときます」








わざと俺の太腿に手を当てて、腕に胸を押し付けているサラさん。








男としては耐えがたい状況だ。









「…………えぇ。さくやくぅん。お願いだからさ、せめて冬夜からあたしを庇ってくれない…?」









上目使いで俺を覗き上げているサラさん。








本当に自分の魅せ方を熟知しすぎている。









「無理ですね」







「……んもう。あたしを誰だと思ってんの…?咲哉くんが望むもの、ぜーんぶあげるからさ」









………本当にこの人はどれだけ冬夜が怖いんだ。









しかも、その癖に冬夜を遠慮なくぶっ潰す。









「……俺の欲しいものは自分で全部手に入れますからご心配なく」









「えぇ?そんなことしなくても簡単に手に入るのよ?女?お金?____それとも…あ、た、し?」











ここまで来ると苦笑いしか出ない。










そっと、サラさんが俺の脚に置いている手に自分の手を重ねた。










予想をしていなかったのか、ピクリと小さくサラさんの指先が跳ねた。











そしてその指と自身の指を深く絡み合わせる。








驚いているサラさんに構わず、俺はその手を自分の足から持ち上げた。










すると変な体勢だったサラさんは案の定体のバランスを崩し、俺にもたれかかって来た。









その腰を勢いよく引く。











「__________男舐めてちゃ怖い目見ますよ?」











零れ落ちそうなほど大きい目を、見開くサラさん。








軽く囁いてみてから、そっとサラさんと自分の体を離した。












「俺が欲しくて欲しくて懇願するものは、ただ切ないもんばっかですから」










サラさんに俺はもったいなさすぎますよ、と笑ったところで______。











大きな破壊音とともに、息を切らした懐かしい人物が現れた。














「______________唯華。お前ってやつは………」











「…………え、え、と、冬夜…」















唖然と立ち尽くしているサラさんに、乱暴に足を立てながら冬夜が向かってきた。









一瞬だけ俺と目が会い、冬夜は口パクで何かを呟いた。









"騒がせたな"、と。









本当に騒がせてくれたよ、なんて思いながらも俺はただ笑みを返すだけ。









すると俺に対して興味は失ったかのように、冬夜の視線は真っ直ぐにサラさんに注がれた。











「________なぁ、お前、どうされたい?」











ざっと俺の横を通った冬夜から香った香りは、サラさんの腰を抱き寄せたときに香った甘い匂いと同じだった。











ふと笑みがこぼれて、そっと席を立ちあがる。











そう言えば下の俺の後輩たちは今頃突然の存在の登場に泡でもふいてんじゃないか、なんて後ろからかすかに聞こえた吐息に耳をふさぎながらそう思った。











咲哉side*END




















莉々香side*









ツーンとする臭いが鼻を刺す。







そして次に感じたものは息苦しさ。








まどろみを抜けてゆっくりと目を開いた。






……………何だろう。







目の前が霞んでいる。






そして体も、頭も、異常なほど重たい。






ただあたしは、ぼーっとしながら天井を見つめていた。







「…………」







静かな空間に身を任せ、まぶたが少しずつ落ちそうになった時。








「 莉々香……? 」







耳に残るような、甘く掠れた声が聞こえた。
































ゆっくりと顔を横に向ける。





_____「さくや、くん」







そこには椅子に腰掛けた咲哉くんがいた。






「大丈夫か?」








______あぁ。








これは、夢なのかな。






咲哉くんがあたしの頭をゆっくりと撫でている。








「…… 莉々香、全然食べてなかったのか?栄養不足だって医者が言ってたぞ」






咲哉くんの手が心地いい。





そう言えば最近、忙しくてサプリメントを飲むのを忘れていたなと思った。








「これからはちゃんと食べろよ」






小さい子供に言い聞かせるようにあたしに優しく喋りかける咲哉くん。






夢なら、もう覚めないでほしいな。







じっと咲哉くんを見つめた。








「……どした?」







にっこりと笑う咲夜くんに、かすれる声を出した。








「さくや、くん……。ギュってして……」









夢ならば、どこまでも幸せな夢を見せてください。







願わくば、この夢を永遠に続けてください。









まだ視界がぼんやりと霞んでいて、咲哉くんの表情はよく見えないけれど。








少しして、咲哉くんが身を乗り出したのが分かった。









そっとあたしの背中に手を入れてくれる。









あたしは咲哉くんの首に手を回し、力を込めた。








するとゆっくりと起こされる体。







咲哉くんは自身もベットに腰掛け、そっと後ろから抱きしめるように支えてくれた。









「……これでいいか?」







「咲哉くん……」







また意識がまどろんでくる。






暖かい。









今まで見た夢で一番幸せな夢だな、と思った。










とても心が満たされていた。










「……………さくや、く……」










ギュっと咲哉くんの服を掴んだのを最後に、あたしは暖かな温もりに意識を手放した。

























体がフワリと浮き、暗闇の奥底に落ちる感覚で目を開けた。









咄嗟に身を起こす。







………ゆ、夢……?







先ほど感じた浮遊感は、もうすでに消えていた。







……あぁ、こんな気味の悪く変な感覚はよく起こる。









組んでた足などが自然に崩れてしまう時、その衝動が夢では大きく感じられるだけだったはず。









……あー、最悪。








そんなことを思い出しながら髪をかきあげようとすると、左手に僅かな痛みが走った。










体を横にひねり左手の方を見る。







「は?」









なんと左手は点滴に繋がれていた。









周りを見渡すと確実に病院の個室だった。










……そういえば、倉庫で喘息を起こしたことを思い出した。









体にそこまでのダルさはないが、痛む頭があたしに熱があることを訴えている。










やらかした。









思わず頭をおさえた。










きっと、そのままあたしは気を失ってしまって病院に運ばれたのだろう。







色んな意味で、失態を犯してしまった。









その中でも一番大きいことは、病院に来たからには保険証を使わないといけないことだ。









必然的に、父親のことが病院に漏れる。









そして父親もあたしが病院に運ばれたことを知る。









すると父親は漏れることのない情報のはずだけど、病院に大量の寄付金という名の口止め料を送るのだ。










………それが、どれだけあたしを苦しめていることか。









そして見る限り、あたしが以前通っていた病院ではない。









あの病院は、あたしをVIP扱いしてもっと病室らしくない部屋に入れるからここは違う。









また父親……いや、冷血秘書に監視される日々が続くのかと思うと、胃がキリッと痛んだ。











父親はあたしの体調管理と言う名目で、一度あたしがどんな些細なことでも病院に行ったものなら、軽い火傷でもなりふり構わず強制入院させる。









そして毎日必ず冷血秘書を寄越す。











本当にやめてほしい。









さらに頭痛が酷くなった頭をより深く抱えた。









つい最近に秘書第二号と会ったばかりなのに。









でも逃げることもどうすることもできない。 









ため息を吐きそうになった時。






























がらり、と病室のドアが開いた。









頭を抱えたままそちらを見る。









「……あれ?大丈夫なの?」









そこには疲れきった表情を浮かべている諷都くんがいた。








あたしを見て隠すことなく顔を引きつらせたけど、次には笑顔を浮かべて病室へと入ってきた。










「……ごめん、あたし倒れちゃって」










まず咄嗟に謝罪を述べた。









もうすでにもしかしたら諷都くんたちは父親から何か被害を受けているのかもしれない。









あたしのことを隠すためには手段は選ばない人だから。








「まぁ、俺じゃなくて他のヤツらに謝ってやってくれる?だいぶ精神的に参ってるヤツ多いから。特に総長とか、さくやさ、んとか……って!」











諷都くんの言葉に気が遠くなった。











頭痛がガンガンと頭を叩き、血の気が引いていく。











「……どうした!?大丈夫?莉々花ちゃんっ?」









「ごめんなさい、本当にごめんなさいっ」










どうしよう。










あの人はこの人たちに何をしたのだろうか。









また呼吸が苦しくなってくる。











あぁ、あたし。









本当にダメだ。










諷都くんがナースコールを押した音がかすかに聞こえた。