「暇だ」






そうポツリ呟く。







倉庫から逃げ出すなら今のタイミングだけど、この格好では出歩けない。






あの櫻井莉々香が男物の服着て歩いてたーって噂になればあたしを嫌いな女たちがそこに付け上がってくる。






それにまず身だしなみを人1倍に気にするあたしが、こんな格好で出歩くなんてプライドが許せない。







可愛い子は可愛い格好をしなくちゃ。







……なんか最近の自分って痛いな。






前は表面上はキャピキャピしてたけど、内心は結構冷めてた気がする。







なんだろう、あんまりバカなこと考えてなかった。









てかあたし頭良かったし。







今は勉強してないけど…、でもまだそれなりにいいと思う。













勉強……大学、かぁ…。





まだ高1だけど、前の学校では進学校だったから大学の話を入学早々色々言われた。





将来のことなんて何もわからない。





別になりたいものなんてないし、大人になんてなりたくないし。






変わらない日常を送ることを望んでるし。







「はぁーーー」と大きなため息をついて、ベッドの上でグダーとする。






まぁ将来、大学に行けなかったら働くし。





キャバ嬢でも何でもいいかな…。





父親の会社なんてもちろん次ぐ気ない。





てかあたし隠されてるし。





本妻の子供がいるし。






ブスでバカらしいけど。








もう一度「はぁーーーーーーー」とため息を吐く。






自分、考え子供だなぁーなんて改めて思い直す。





その時自然と目線が手の痣へと移った。





今まで気にならなかったけど昨日より更にはっきりと色が濃くなってるし、形もはっきりとしている。






……なんか、エグイ。








痣の部分をツン、とつつくと痛みはそれほど感じないけど……ギューっと押すと痛い。
















昨日は美奈さんが濡れたタオルで押さえてくれて冷やしてくれた。






何、ケガって冷やせばいいの?






もう何もわからない。






「………やだなぁ」






あたしって、一体何がしたいんだろう。









一人は、寂しい。







ベッドから周りの部屋を見回すと、シンプルな色とシンプルな作りになっているためか、酷く冷たく見える。





一瞬だけぞっと鳥肌が立ったように思えた。








「……のど、乾いた」







もっともらしいことを嘆いて、急いでベッドから降りて走ってドアの外へと飛び出した。







でも、そこにも______誰もいない。






小さく息を吐き、ドアを閉めてそこにもたれかかる。








一度ネガティブなことを考え出すと、どんどんどんどん思考は沈んで行ってしまう。







一瞬、そう言えば諷都君はいるな、なんてことを考えたけどどうせ今度は拒まれるのがオチだ。






今いろいろ言われたら立ち直れる自信ない。












「………っ」






視界がジワリと揺れる。





なんで…涙なんか出てくんの。






「……やぁだっ」







一人で泣いたって、もっと悲しくなるだけ。






でも涙が零れそうになってしまう。






上を向いたら誰もいないのに泣き顔を晒してしまうような気がして、膝を抱えて足に自分の顔を押し付ける。















「……何してんの?」














抱えた膝にツーっと涙がつたった時、頭上からあきれたような声が聞こえてきた。






それでも顔はあげられない。





「……顔上げようよ」








あたしは頭を嫌々と振って拒否を示す。







「……はぁー」










すると冷たいため息を吐かれた。





自分が悪いって分かってるけど、どうしようもなくまた一筋涙がつたる。









「……ねぇ、莉々香ちゃん。顔上げて?」






先ほどとは違い優しい声色。





一瞬顔を上げてしまいそうになったが、意地でも上げない。






あー、でもそう言えば前に泣き顔を晒してしまったことあったな、なんてことも思い出してしまう。





でもなんか上げにくい。







「……どうすればいいの、これ」






ぽつり、と呟かれた言葉が聞こえてしまう。





……やっぱり嫌われてんじゃん。





うざがられてるよ、あたし。







男に。







あーーーー、もう。







男にうざがられるなんて、心外だ。





他の男たちと同じだって思えば何も怖くないから大丈夫。






って自分に言い聞かせてみるけど、暗示は掛かってくれない。







「…………こんなとこで泣くなら一人で泣きなよ」







………一人で泣いてたらそっちが勝手に来たんじゃん、なんて心の中では思う。














「……なんで泣いてんの?」






知らない。







自分でも分かんない。








「…どうしたら泣き止んでくれる?」






あたしだって今すぐ涙ひっこめたいよ。








「……俺さ、女の子に優しくすることは出来るけど…。泣いてる子に優しくすることって苦手なの」






……それこそ知らないよ。







「ね、泣き止んで?」







無理なんだって。















「……………さっき、自分から抱き着いて来たんだから今更拒否らないでよ?てか、もうこれから優しくするのこれっきりだからね?俺、莉々香ちゃんのこと大嫌いだから」






なに、言ってんの?




と思った時。






ふわり、と香りが香った。




あたしが嫌いじゃない香り。






それと同時に温もりも届く。







「抱きしめてあげるからさ、早く泣き止んでよ。俺、泣かれるの苦手なんだって」





「ふうと、くっ……、」








諷都君が、あたしを抱きしめた。














驚くけど、驚いたけど、それ以上に______。








人の温もりが温かかった。






あぁ、さっきまで寂しかったから泣いてたんだなと思う。






でも今は人の暖かさに触れて…もっと泣きたくなてしまう。










「泣かないでって」







嗚咽を漏らしだしたあたしの頭を諷都君は自分の胸に押し付け、ギューっと抱き寄せる。








暖かい。







暖かい。







そして、強く抱きしめてくれる諷都君が熱い。





熱い。





暖かくて、熱い。








……あれ、自分の思考回路壊れちゃったのかな。






自分でもよくわかんないこと考えてる。






…熱でも出てるんじゃない?





あたし。








泣いちゃうし、変な事考えちゃうし。






多分熱なんてないけれど…。








自分の中ではそう言う事にしておこう。






微熱。高熱。






この訳の分からない熱さは、あたしの微熱だ。