「……うそ」





あまりにも意外な言葉で思わずそう言ってしまった。





だって諷都君…あたしのこと大っ嫌いなんでしょ?





なのに普通自分の体触らせないでしょ。








「嘘じゃない。ほら、触るなら早く。シャワー浴びたばっかだから早く髪拭きたいし」







諷都君の髪を見て見ると、その言葉通り雫が垂れ下がっていた。






……やばい。





あたし、濡れてる男の人も好き。





シャワーでもいいんだけど、雨とかでびちょびちょになってる姿見るとすっごいくる。





今の諷都君、なんか神がかってる。






水も滴る腹筋もいい男過ぎる。






そしてチラリと鎖骨を見ると…、これまた素敵。




いい感じに鎖骨の間に水が溜まっていて…。






……あたし、こんなに変な考え持ってたっけ?






ここまで興奮したことない気がする。





_____あぁ、諷都君の顔がイケメンすぎるから更に際立っちゃうんだ。





一人でなるほど、と感心していれば諷都君が痺れを切らしたように「まだ?」と言ってきたので、慌てて鎖骨から視線を逸らした。







「えっと…ここで?」





軽く首を傾げながらそう聞くと、当たり前でしょみたいな顔されて。






……人来たら最悪だな。







すると諷都君はあたしの考えが分かったのか。






「あー、なら俺の部屋来る?」






優しく甘いマスクで誘ってきた。






いつもなら不信感を抱いたり、色々感情が表立ってしまうけど。















今ならその偽りの笑みにぽーっと見惚れてしまう。






そしてコクっと頷くとニッコリと微笑まれ、そっと腕を掴まれた。






「こっち。」







そして諷都君はさっき自分が出てきた扉を開ける。







……ここ?







そしてあたしはゆっくりと諷都君の部屋へと入って行った。







「俺たち幹部には一人一人部屋が用意されてて。」






諷都君はそう説明しながらも、大きめのベッドに腰掛ける。






……あたしもそっと隣に座ってみた。






まぁ他に座るところないし。






総長室よりかは狭い気もするけど、それでも十分広い。






周りを見ていたあたし。






そんなあたしに諷都君は…。








「ねぇ、まだ?」







耳元でそっと問いかけてきた。





ゾクリ、と体に痺れが走る。






……やばい。




そっと諷都君の方を向くと、やっぱり満面の笑顔を浮かべていて。







あたしはそっと、諷都君のお腹に手を伸ばした。













そっと触れる。





シャワーから出て何も着ずにいたせいか、少し冷たいそこ。







そのまま腹筋の形をツーッとなぞってみた。





……やばい。






次にペタペタ触ってみる。






……やばい。








それからツンツンとつついてみたり、なでてみたり、好きかってしていたあたし。







そしてふと、先ほど見た綺麗な鎖骨を思い出す。






「……鎖骨も触っていい?」





そっと諷都君の顔を見て問うと、いいよ、と返事が来て。





少し、諷都君に詰め寄って鎖骨に触れてみた。







……ヤバイヤバイヤバイ。







諷都君、すっごいいい体しすぎてる。







「諷都君…やばい」






そうポツリと漏らすと、クスクスと笑い声が聞こえて。






「なら良かった」





あたしは咄嗟に諷都君に抱き着いてしまった。
















勢いよく首に手を回したため、そのまま諷都君の重心が後ろに倒れる。







……あれ。







そう思った時には遅く。






諷都君をなぜか押し倒してしまっていた。





……あ。





やって、しまった。







あたしは何かあると抱き着きたくなる癖がある。






……あたし、どんだけ変な癖持ってるんだろう。







自分の腕の中で動かない諷都君の様子がすっごい気になりつつも、この現状に少し現実逃避。








「……莉々香、ちゃん?」







いつもと変わらない諷都君の声。





……それが今では恐ろしい。






「ご、ごめんっ!つい、勢い余って…。直ぐどけるからっ」






慌てて諷都君の上からどけようとするけど…。







「待って」






諷都君が、なぜか静止の声をあげた。








……え?







と思った時には。









諷都君にギューっと抱きしめられていた。









「……え?」








戸惑う。








でもこれは、心臓に悪い。






諷都君の熱が少しめくれたスウェットから直に感じられる。








「好き勝手触ったんだから、少し位俺にも時間頂戴」








そして更に力が籠められる。








突然のことで、さらにパニックになるあたし。







それでも、あのヤバすぎる腹筋に抱きしめられてると思うと抵抗何て出来るもんじゃない。






すんごい今幸せ感じちゃってるあたし。





一筋縄ではいかない、あたしの腹筋と鎖骨愛。






今までの男もそこそこのいい体もってるやつはいたけど、なんか微妙だった。






昨日の龍翔は良い腹筋だな、とは思ったけど腹筋どころじゃなかった。







でも諷都君は…やばい。






やばいとでしか表せないあたしの表現力のなさだけど、言葉が見つからないほど感激してしまっている。






だからちょっと抱きしめ返してしまうあたし。








……肌と肌で、触れたい。








変な意味………変な意味だけど変な意味ではなくて、諷都君の腹筋に直接触れたい。












思い立ったらすぐ実行。





別に男の前で裸になることなんて慣れてるからほとんど抵抗ないし。







「諷都君…ちょっと離れて?」






小さくそう呟くと、ゆっくりだけど諷都君は力を弱めてくれて。





あたしは諷都君の上から抜け出し、自分のスウェットに手をかけた。









「は?」








という戸惑っている諷都君を無視して…あたしはバサっと脱ぎ捨てた。








でもブラをしてあるから、上半身裸ではないけど。








そしてそのまま諷都君に抱き着く。






すると……諷都君は固まってしまった。








まぁそれが普通の反応だろうな、なんて思いながらも諷都君の肌と自分の肌を密着させる。








ヤバイヤバイヤバイっ。







もう完全に頭のいかれてしまっているあたしと、あたしの馬鹿な行動に固まってしまっている諷都君。










「え、り、莉々香ちゃん…?」







「……もうちょっとだけ」






諷都君の首筋に顔をうずめて、片手で鎖骨を撫で、片手で腹筋を撫でる。









……あたし、諷都君のこと好きになれるかも。








なんとも裏のありすぎる理由であたしは諷都君に、前みたいな嫌悪感を一切感じなくなっていた。






いいし、別に。





諷都君の肉体美は誰にも負けないとあたしが保証するし。










「え、やばいんだけど…。」






更にヒートアップしてしまうあたしの行動に、ついに諷都君は動き出してしまった。







ぐっと力を入れられて諷都君が自分からあたしを離そうとする。







「ごめん、莉々香ちゃん…。俺、本当今ヤバいから。」







それでも頭がイカレテいるあたしにはその言葉が届いていなくて。







もう一度抱き着こうとすると…。







そのまま諷都君に押し倒された。






………え?






諷都君の顔を見ると、明らかに怒っている。








「俺、男だよ?」









諷都君のその一言は、すべてを物語っていて。








「……知ってるよ?」






つい、あたしはそう返してしまった。







諷都君の言葉に隠されている意味はもちろん分かる。






でも…その肉体美になら抱かれてみたい。











すると諷都君は盛大にため息を吐いて。







「……参ったな」







そいポツリと呟いた。






「……ねーね、諷都君?」






あたしがそう諷都君に問うと。






困った顔をして諷都君はあたしを見た。







それを狙ってキスしようと身を乗り上げるけど…。








「…だめ」






軽く元の位置に押し戻されてしまった。








「えぇ…。諷都君のけちぃ」








ブスっと可愛く頬をふくらましてみる。






すると、少なからず効果はあったようで。






諷都君は苦虫を噛み潰したような顔であたしを見つめた。







「キスぐらいいいでしょ…?」







コテン、と顔を傾け可愛らしさを前面に押し出す。






自分の魅せ方ぐらい、いくらでも知ってる。





すると諷都君はさらに溜息を吐いて。







「キスしたら止まんなくなるから」






……それでも、いいのに。








女のあたしはよくて、男の諷都君が拒むという話も変わったものだ。







「別に良いよ…。ヤろ?」






そう言えば、諷都君もさすがに限界が来たようで。






あたしの首元に顔をうずめた。





諷都君の髪が当たってくすぐったい。





そしてピりっという痛みが首筋を走る。






「……っぁ」








あたしの声に諷都君はがばっと起き上がって。







「…無理だ。シャワー浴びてくる」







「……は?」







あたしの上からどけて、この部屋についている何かの扉をバッと開いてドガっと閉めた。








「……え、放置プレイ?」







……嘘でしょ?







絶対に諷都君を欲情させた自信あるのに。






根拠のない自信を裏切られた感満載で、フテてしまう。






……諷都君の鎖骨と腹筋、また触らせてもらおう。






ここからかすかにシャワーの音が聞こえる。






一瞬シャワールームに乗り込んでやろうか、なんてことを考えたがもうやめた。







これ以上しつこくやると本気で嫌われて顔すら合わせてくれなくなりそう。







そうなれば2度とあの体を拝めない。






今後の機会に賭けることにして、あたしはスウェットを着て諷都君の部屋から出た。








……やっぱりあたしはちょっと頭がおかしいな。














そう思うとクスクスと笑いが出た。






……あれ。






あたし、笑えてんじゃん。






結構あたしの中で重くのしかかっていた“諷都君”という存在が風船以上に軽くなり、いや、逆にあたしの好きなものに変わり気が結構楽になった。







この笑い方を忘れないようにしないと。







そう思って諷都君の部屋から出た。







……どこ行けばいいんだろう。







今度は諷都君の部屋から出て行き場に困る。








「……総長室でいっか」







思いのほか独り言にしては明るい声が出て、更に笑えてしまう。






腹筋&鎖骨パワー、最高ですな。





自分の馬鹿な考えと、フェチに感謝だ。






そして直ぐ誰もいない総長室に入る。





すると起きたときには分からなかったが、デスクの上に充電器に繋がれたあたしの携帯があった。








龍翔が充電してくれたのかな?






そう思いつつも携帯をタップすると、またもや驚く履歴件数が。






着信:20

メール:554






「あと1件でメール555件になるのに」





それでも今のあたしには全然余裕があった。






____それが腹筋パワーだけのお蔭ではないことに、まだ気づかない。







そのまま暗証番号を入力し、まずは着信履歴を見る。






「……特に、普通」






中学の同級生の男子と、前の高校で同じクラスだった男子と、よく覚えていない名前がちらほら。








着信はめんどくさいから放置で。








そして次にメールを開こうとすると…。








画面にちょうどメールが届いたという知らせが出た。









あ、555件になったじゃん、なんて思う。







そしてメールボックスを開くとやはり大量にメールがあった。






迷惑メールっぽいやつはいつものように削除。






てか迷惑メールって言っても、女たちの嫌がらせ。





1日100件は届いてるはず。





それでも内容は見てないし、ちょっと作業がめんどくさいだけであんまり気にならない。






そして今めんどくさいのは男のメール。






開くと同じような内容ばっかり。







2度目の一斉送信で事実を否定する。







……あれ?








否定でいいんだよね?








龍翔とやっちゃったけど…まぁ関係ないか。







あたしは呑気に充電器から携帯を抜き取り、そのままベッドに寝転がる。






携帯さえあれば暇つぶしにもなる。






そしてふと、時間を見て見ると…。








[12:15]





じゅうにじじゅうごふん








「12時、15分」






学校遅刻じゃん。






でも今日は行く気は無い。








………咲哉君とどんな顔して会えばいいか分かんないし。








また拒絶されるのが単に怖いだけ。







さっきまで上を向いていた気持ちが、倍速で下に落ちていく。













……なんか、この数日スッゴイ忙しいな。







転校するわ、転校先で色々心抉られるわ、暴走族とかに目をつけられるわ、或斗に誘拐されるわ、極上の体を見つけるわ。







濃すぎる。






もうだからこの先は薄くていいかも。







普段通りの日常で。









……あたし、変わることが大っ嫌い。







何も変わってほしくない。







少しでも変わったことがあるとなんだか悲しくなる。







別に数日前までの孤独を埋めようと必死になっていた毎日でいいから、あれがあたしの日常だから、明日からも変わることなくそれを送り続けないと……不安だ。







その日常を送ることも不安。







その日常じゃない日常を送ることも不安。







どっちみち、不安な人生。







やっぱり自分の人生カスイな、なんて思いながらも携帯を見るともうメールが50件も溜まっていた。








「…早いよ」







あまりの男の返信の速さにちょっと引きながらもメールチェック。






これまた変わった内容はなし。







[暇な日あったら遊ぼうねっ♡゛]






今送られてきたメールに一括で返信。






するとまた直ぐに帰ってくる20件のメール。







いやいや、早すぎるって。







乙女?







そんなくだらないことを思いながらも、今度はちょっとめんどくさいけど1件ずつ返していく。







それでも直ぐに返信が来る20件。







「……やめた」







エンドレスに続きそうな男たちとのメールに嫌気がさし、画面が傷つくのも考えずポイッとそこらへんに投げる。







壊れたら新しく出たやつ買おー、なんて薄情なことを思いつつも携帯の存在がなくなったことによって暇になってしまった。






……あたしって我儘だな、なんて考える。








自分で携帯ポイッてしたくせに暇感じるとか。






我儘じゃなくて馬鹿なのか。








フッと笑みを漏らしながらもベッドにうつ伏せになる。







……龍翔どこ行ってるのか帰ってこないし。






諷都君とは今会ったらダメな感じだし。








他はどうなってるのか知らないけど、多分いないと思うし。