「…え?咲哉…さん?今……。」






雷は顔面蒼白で俺を見ている。





「……わりぃ…。ホント、今のは忘れてくれ…。」





かすれて、消え入るような声しか出ない。






頭を抱えたくなる。





もしこのことが龍翔に知られてしまったら…どうなるんだろうか。






あれだけ真っ直ぐな思いを俺は汚してしまったんだ。





龍翔は知るべきで事でははない。






「え…?でも、咲哉さん………。」





そんな俺に雷は戸惑っているようで。





でも、雷には黙ってもらわなければならない。




「頼む…。もう…莉々香には近づかない、から。本当、俺…どうかしてた。」





俺がこれ以上莉々香に近づかなければいい話。





龍翔が莉々香の孤独を埋めればいい話。





俺は…無力感を感じるだけじゃなく、2人の邪魔をしようとしてしまったんだから。













「………分かり、ました…。俺は…何も見てません。それが、先代である咲哉さんの願いなら。」







雷…。







「助かる…。俺、帰るわ…。学校の仕事もあるし…な。…龍翔達にもそう伝えといてくれ。それまで…莉々香を、頼むな。」







先代である俺と、憧れの今の総長である龍翔との板挟みにされてしまった雷。






心では凄まじい葛藤が繰り広げられているだろうな…。





…本当、ごめん。







俺の無責任な行動のせいで…悪かった。







俺はそっと莉々香の方を向き、莉々香に毛布をかけなおしてやる。







…莉々香。





もう俺はお前に何もしてやれない。






龍翔を、頼れ。






沢山の人に温もりを求めても、そんなものに価値は無い。






莉々香…。







莉々香の寝顔を見て力なく微笑むと、そっとベッドから立ち上がった。

















それから雷の所に行き、肩をそっと叩いてこの部屋から去った。






一歩一歩、ゆっくりと歩く。






廊下には誰もおらず、隣の部屋にも誰もいない。






俺の歩く足音だけが響く空間。






そして地上へと続く階段へと差し掛かる。






……あぁ。






何か、泣きそう。






……いい大人が理性ぶち壊して、高校生を襲おうとするとか。





笑える。






でも、莉々香だから。






そう考えると、泣ける。






……やべぇ。






マジで涙でできそう。






本当この年で泣くとか…。






「ダサいな……。」






そんなことを呟きながら、俺は階段を登り切った。











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「晃~~~。ホント、俺マジであり得ねんだけどぉー?」





あれからいったん毒牙の倉庫から出たらしい龍翔達とは会うことなく、直ぐに学校へと戻り、晃のいる理事長室に行った。





晃に毒牙との争いについて報告し、莉々香との事を伝えるためバーへ飲みに来ている。




時間が経ってもなくならない、この胸に詰まるような悲しみと苦しみを流そうと酒を飲むけど……。





飲んでも飲んでも、酔っ払っても、取れない違和感。




晃は俺の話を聞いても、特に何も言わずグラスを傾けるだけ。





「酔っぱらいは黙れよ!」





「こーーーーうっ。冷たいなぁー。…もう、俺、どうすればいいーー?」







「…咲哉さ、何で莉々ちゃんにキスしようとしたんだよ?」





「…なんとなくー。てか、今なら晃が莉々香と何のためらいもなくホテル行こうとしたこと…超分かるんだけど。」






「んまぁ、あれは俺の…黒歴史?って感じだな。ホントに莉々ちゃん可愛いし。まぁ、2人だけだったらキスもしたくなるわな。」






「そうそう……。てか、よく俺……キスだけで我慢できたよなぁーー。」













「いやいや…。お前、酔いすぎだろ?さっきまで何でキスなんかしたのかって後悔してたくせに…。開き直ってんじゃねーよ。」







「…俺、そんな酔ってるぅー?」






頭がぼんやりとして、何を考えているのか、何を晃に向けて話しているのかも理解できていない。





「泥酔状態。てか、いつもの何倍飲んでんの?今飲んでるやつも…強い酒だろ?」






グラスを回すと、中に入っている氷がカラカラと良い音をたてる。





そしてそのまま一気に残りの酒を飲みほす。







「マスタぁー。もう一杯ちょーーだい。」






そして空のグラスをカウンターの向こう側にいるマスターに押し付ける。





「咲哉…。もうやめとけ。明日の二日酔いがやべーぞ?授業もあるんだし。って…お前、莉々ちゃんの担任だろうが。」






「担任ーー?……なら関わりが切れねーじゃん。おい、晃ーーー。どうしてくれんだよーーー!もう、今日は飲んで飲んで潰れる……。」







「もう潰れてんだろ。」






「…まだいける。もっと飲まないと、痛みは取れねーんだよ。泣きそうなんだよ………。」






「…咲哉…?お前…。まさか…。莉々ちゃんの事…。」






「………晃の、ばーか。龍翔のばーか。莉々香の…ばーか。別に、龍翔じゃなくてもいいだろ?俺にしとけば…、俺に……。」





「…………咲哉…お前…。冗談だろ??って、寝たし…。」







俺は、ここで意識を失っていた。




晃の言葉を聞かずに。





「咲哉…。莉々ちゃんはやめとけよ。本気で莉々ちゃんが……龍翔じゃなくてお前に惚れる。そうなれば……分かるよな?莉々ちゃんは咲哉に__を求めているだけなんだから。お前に姿を重ねて愛されたいと願っているだけなんだから。咲哉…咲哉だけはダメなんだよ。」





















「なぁ、咲哉…?運命って…残酷だよな。」





















咲哉side end*














「莉々香…。本当に可愛いね、お前は。」







「うんっ!でも__の方がカッコイイよ?カッコいい__が大好き!」







「ははは。それは光栄だなぁ。俺も莉々香の事が大好きだよ?可愛い、可愛い、俺の莉々香」







「……っ!すっごく嬉しい!ずっと一緒にいてね?ずっと傍に居てね?」








「もちろん。約束する。何かあれば絶対に莉々香を守るからね。」

















朦朧とする意識の中、ユラリ、ユラリと……心地よい揺れを感じる。





暖かく、心地よい。





あれ……。





あたし……何を言っているの?





誰に向かって好きって言ってるの?





頭の中にあたしの少し高い声と、男の人の会話が響く。






あたし……こんな事誰かに言ったっけ?






誰に……?






そもそもあたしってこんなこと言う事無かったよね?





変なの……。






そしてまた、からだの揺れを感じながらも意識を深く沈めていった。