さっき、莉々香には龍翔がいるって思ったばかりだろ、自分。
あれだけ莉々香に対する思いを実感しただろ?
自分に必死に言い聞かせる。
でも…心とは裏腹に莉々香の口から指を抜くことはできない。
逆にもっと奥深くに指で触れたい、という気がしてくる。
温かい口内。
ベッドの上に2人きりという状況。
しかもイヤでも目に付く莉々香の素肌。
そして莉々香の扇情的な色気と甘い香り。
全てが俺を惑わす。
莉々香をこのまま自分だけのものにしたくなる。
このまま莉々香に触れて、そして監禁でもしてずっと俺のもとに置いておこうか…。
普通では考えないようなことでも今なら本気でしてしまうような気がした。
……莉々香……。
……あぁ。
俺……ダメだわ。
ここで俺の理性なんてものはなくなった。
全て____どうでも良い。
今、莉々香を手に入れられるなら。
自分が教師であることも、莉々香には龍翔がいることだって……。
______俺が莉々香に言わせた言葉も、罪悪感も。
もう全て忘れてしまって。
そんな始めて感じる強い独占欲なのか…訳も分からない感情が俺を支配する。
そして莉々香の唇においていた手をそっと莉々香の頬に添え…、
………激しく口づける。
莉々香…。
キミはなんて罪な女なんだろう。
俺にあれだけ綺麗に微笑むのに、どこか儚くて…。
その微笑みも全部ニセモノで。
それでも俺を惑わす。
莉々香…。
どんどん熱くなり、昂ぶっていく気持ち。
ここがどこなのか、自分でももう分かっていない。
目の前にいる莉々香だけにしか意識なんて向かれていなくて。
ある存在に_____気づかなかった。
「……え?さ、咲哉さん?何して……。」
その声でハッと我に返る。
え…俺…。
今…何しようとしてた?
何…シテタ?
莉々香からそっと離れる。
綺麗な顔で眠っている莉々香。
その唇は俺が犯した罪の証拠である光沢を放っていて…。
やっと、現実を考えれた。
そして無意識のうちに掴んでいた腕をそっと離すと…毒牙に汚された紫の痣があった。
手形がくっきりと残り、痛々しい。
それに加え、俺が強く握っていたので赤くなっている。
………俺…。
莉々香を傷つけてしまった。
汚してしまった。
あれだけ莉々香に言わせてしまった言葉を後悔していたのに。
また、過ちを繰り返してしまった…。
たかがキス。
されどキス。
後悔してしまうには十分のモノ。
そして恐る恐る崩れているドアに視線を向けると…酷く混乱している雷がいた。
「…え?咲哉…さん?今……。」
雷は顔面蒼白で俺を見ている。
「……わりぃ…。ホント、今のは忘れてくれ…。」
かすれて、消え入るような声しか出ない。
頭を抱えたくなる。
もしこのことが龍翔に知られてしまったら…どうなるんだろうか。
あれだけ真っ直ぐな思いを俺は汚してしまったんだ。
龍翔は知るべきで事でははない。
「え…?でも、咲哉さん………。」
そんな俺に雷は戸惑っているようで。
でも、雷には黙ってもらわなければならない。
「頼む…。もう…莉々香には近づかない、から。本当、俺…どうかしてた。」
俺がこれ以上莉々香に近づかなければいい話。
龍翔が莉々香の孤独を埋めればいい話。
俺は…無力感を感じるだけじゃなく、2人の邪魔をしようとしてしまったんだから。
「………分かり、ました…。俺は…何も見てません。それが、先代である咲哉さんの願いなら。」
雷…。
「助かる…。俺、帰るわ…。学校の仕事もあるし…な。…龍翔達にもそう伝えといてくれ。それまで…莉々香を、頼むな。」
先代である俺と、憧れの今の総長である龍翔との板挟みにされてしまった雷。
心では凄まじい葛藤が繰り広げられているだろうな…。
…本当、ごめん。
俺の無責任な行動のせいで…悪かった。
俺はそっと莉々香の方を向き、莉々香に毛布をかけなおしてやる。
…莉々香。
もう俺はお前に何もしてやれない。
龍翔を、頼れ。
沢山の人に温もりを求めても、そんなものに価値は無い。
莉々香…。
莉々香の寝顔を見て力なく微笑むと、そっとベッドから立ち上がった。
それから雷の所に行き、肩をそっと叩いてこの部屋から去った。
一歩一歩、ゆっくりと歩く。
廊下には誰もおらず、隣の部屋にも誰もいない。
俺の歩く足音だけが響く空間。
そして地上へと続く階段へと差し掛かる。
……あぁ。
何か、泣きそう。
……いい大人が理性ぶち壊して、高校生を襲おうとするとか。
笑える。
でも、莉々香だから。
そう考えると、泣ける。
……やべぇ。
マジで涙でできそう。
本当この年で泣くとか…。
「ダサいな……。」
そんなことを呟きながら、俺は階段を登り切った。
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「晃~~~。ホント、俺マジであり得ねんだけどぉー?」
あれからいったん毒牙の倉庫から出たらしい龍翔達とは会うことなく、直ぐに学校へと戻り、晃のいる理事長室に行った。
晃に毒牙との争いについて報告し、莉々香との事を伝えるためバーへ飲みに来ている。
時間が経ってもなくならない、この胸に詰まるような悲しみと苦しみを流そうと酒を飲むけど……。
飲んでも飲んでも、酔っ払っても、取れない違和感。
晃は俺の話を聞いても、特に何も言わずグラスを傾けるだけ。
「酔っぱらいは黙れよ!」
「こーーーーうっ。冷たいなぁー。…もう、俺、どうすればいいーー?」
「…咲哉さ、何で莉々ちゃんにキスしようとしたんだよ?」
「…なんとなくー。てか、今なら晃が莉々香と何のためらいもなくホテル行こうとしたこと…超分かるんだけど。」
「んまぁ、あれは俺の…黒歴史?って感じだな。ホントに莉々ちゃん可愛いし。まぁ、2人だけだったらキスもしたくなるわな。」
「そうそう……。てか、よく俺……キスだけで我慢できたよなぁーー。」