「ふざけないで!!あなたなんか……悪魔以外の何があるの!?」
女はあたしのことを悪魔という。
「マジ可愛い!!さすっが俺らの天使!」
男はあたしのことを天使という。
「お前、人形みてーだな」
ある人はあたしのことを人形という。
あたしはいったい…なんなんだろうか?
自分で、自分が分からない。
ただ、温もりが欲しかっただけなのに。
ただ、楽しく生きたかっただけなのに。
ただ、誰かに必要とされたかっただけなのに。
ただ、生きる価値が欲しかっただけなのに。
ただ、誰かに愛してほしかっただけなのに。
どこで道を間違えたんだろう_____。
「櫻井莉々香(さくらい りりか)さん明日より、無期停学処分とさせていただきます。」
淡々とあたしの目の前で喋っている校長。
そしてその横で鬼のような形相であたしを睨んでいる女の副校長。
……え?
停学?
……嘘でしょ?
校長室にわざわざ校内放送で呼ばれてやってきた結果。
停学処分を下されたあたし。
校長の言葉に酷く戸惑う。
「あ、あの…?あたし、何しましたか?」
特に問題になるようなことはしていないはず。
派手なことをした覚えがない。
「匿名で櫻井さんと見るからに年上であろう男性とホテルに入っている写真が学校宛てに送られてきました。その写真がネットに流失していることも含め、職員や保護者らの間で無期停学という処分を下すという事に決定しました。」
年上…?
ホテル…?
…心当たりがないわけではない。
でも写真って…?
ワケわかんない。
「…停学処分って、どのくらい続くんですか?」
「事が納まるまでですね。」
…いつまでよ。
一瞬は激しく戸惑ったものの、今ではもう冷静に校長の話を受け止めていた。
それは、いつかは退学ぐらいにはなるかな~なんて思ってたから。
まさか、入学した1か月後に停学なんて思っては無かったけど。
「…なら、退学して別の学校に行きます。先生方もそっちの方がいいでしょ?あたしみたいな問題児、邪魔でしょ?学校のイメージがどんどん下がっていくし。」
あたしのこの言葉を聞いて副校長は明らかに表情を緩めた。
…気に入らない。
「…分かりました。では、退学届けにサインしてください。今回は例外としてサインだけで受理します。」
…ちゃっかり退学届も用意してるんだ。
まぁ、それだけあたしを追い出したいんだね。
一生懸命すぎて笑えるわ。
校長が出してきた紙に机の上に置いてあったボールペンを使って名前を書く。
[櫻井 莉々香]
……これで退学か。
早いな。
でもいつ終わるか分からない停学でいらいらするよりかはマシだ。
「…じゃ、お疲れ様でした。さよーなら」
大人たちを睨みながらボールペンをバンッと机に叩きつけて、校長室を出た。
「…はぁ」
イライラを通り越してタメイキが漏れる。
勢いで退学しちゃったけど…この後どうしよう?
今更ながらに考えると停学より退学の方がめんどくさいかもしれない。
別の学校に行かないといけないもんなぁ。
試験とか受けるのか。
今の学校もせっかく苦労して入ったのに。
そんな簡単に辞めるんじゃなかった。
なーんて事を考えながらまだ授業中である自分の教室へと入る。
もちろん多少後悔しても、退学を取り消してもらおうなんて考えはさらさらない。
がらがら~~。
大きな音が静かな教室に響き渡るが、あたしが入ったことによってうるさくなった。
「あれ~?莉々香じゃん?どこ行ってたんだよ?」
「サボり~?俺もサボりてぇー。」
呑気な男の声と、
「……櫻井さんって校長室に呼び出しされてたよね?」
「何をやらかしたんだろうねぇ?」
「男に騙されたとか!?キャハハ!」
あたしを全面否定する女の声。
あたしは女の声はスルーし、男たちの輪に入る。
授業中にも関わらず、円を作ってみんなでゲームをしているようだ。
「もう聞いてぇ!あたしさぁ、退学しなきゃなんないの!」
「はぁ!?ちょ、莉々香?いきなりなんでだよ!?」
ゲーム機に向けられていたいくつかの視線が鋭くあたしに突き刺さる。
……何て説明しようか。
「なんかねぇ?あたしがこの学校の印象を下げているから出て行けって…。」
すっごく悲しそうな表情を作り、今も泣きそうな雰囲気を作ってみる。
ホテルで写真撮られて退学ってことは割愛で。
「は?この学校何考えてんの?マジでありえねー」
「だよな?こんな可愛くて天使な莉々香ちゃんを追い出すとか。」
すると複数の派手な男子たちが授業そっちのけで怒り出す。
まぁもともと授業なんて聞いてはいないだろうけど。
内心思い通りに事が行き過ぎて笑いそうになるが、必死に堪えて1人の男への胸へと飛び込んだ。
「あたし、この学校から離れたくないよ…。みんなと、まだ一緒にいたいし仲良くしたい。」
後ろから女たちが「色目使いやがって!あの悪魔!」「男好きにもほどがあるわ!」と騒ぎまくっているがやっぱり無視。
あたしには男だけいればいいんだから。
男の温もりだけでいいんだから。
ギューっと抱きしめる力を込めながら思う。
「おい!そこのブスら!何、莉々香のこと悪魔とか言ってんの?」
「だ、だって…!その女に騙されてるんだよ?顔がいいからって調子のってる…」
男たちはあんな女達に、わざわざあたしのために怒ってくれるし。
そのことに優越感を感じ、女達の方へと顔を向け笑みを浮かべる。
それを見てまた怒り出す女。
それにキレる男たち。
もう授業どころではない。
あたしのこのクラスは、珍しくこの進学校でもヤンキーなど派手な男や女が集まっているクラス。
ってか、問題児を集めたようなクラス。
だから、言い争いも半端じゃない。
…さすがにもういいかな?
「あのさ…もう、良いよ?あたしは大丈夫だからぁ」
そう言って抱き着いている男へと視線を移すと、女達に向かっていた顔と打って変わって満面の笑顔で返してくる。
超扱いやすい。
「莉々香、俺と今日はずっといような?今日でサヨナラだろ?少しでも一緒にいるから」
「そんなッ!サヨナラなんてあたしはヤダよ…。これからも、ずっと仲良くしてね?」
ちょーっと視線を伏せて悲しい表情を作るだけでデレッデレッの男達。
うんうんと激しく首を動かす男たちに微笑むと、男の胸から離れて一言。
「最後だからみんなで学校抜け出して遊んじゃおっか?」
とびっきりの笑顔で。
もちろん遊ぶって言ってもただ遊ぶだけじゃ終わらない。
「「「「「「もちろん!」」」」」」
「ふふふ!なら、行こうか?」
それから大喜びの男たちをぞろぞろ引き連れて教室の外へと出る。
学校には教科書など置いていないのでカバンだけ持っている。
そして女たちの横を通った時は、超悔しそうな笑顔を浮かべていて…。
さらにあたしの気分は良くなった。
…あたしそうとう歪んでるなーなんてことを思いながらも、放心している先生が目に入る。
「……先生ぇ?あたし達…気分が悪いので保健室に行って来ていいですかぁ?」
可愛ーく、おしとやかそうに言ってみる。
んまぁ、もちろん効果は抜群。
「え、あ、その?」
急に顔を赤くして、もじもじしだす剥げたおっさん教師。
シャキッとしろよ。
「ありがとうございますぅー。どうせなら、あたし以外みんな早退じゃなくて出席扱いにしてくださいねぇ?」
そして最後に笑顔っと。
これでOK。
また男たちに視線を向けて、「じゃ、行こうか?」そう言って昇降口へと目指した。
もうこの学校に未練なんてものは欠片もない。
しかし最後に面白い出来事もあったが。
超イケメンの先輩らしき人と通りすがった。
まだこの学校に入学して1か月だから誰だか知らないけど。
メガネをかけていて一見真面目そうだった。
でも頭には黒に派手な赤のメッシュが所々入っているから、ヤンキーなんだろうな?
なんて思いながらも、横を通り過ぎた。
この時は、まだこの人をただのイケメンヤンキーとしてしか認識していなかった。
ただの、ヤンキーとしか…。