- 現在 -
コンコン。
再び扉がノックされる音が
ボクを現実に引き戻した。
「YUKI。
そろそろいいかしら?」
有香の声を受けて
ボクは自ら楽屋の扉を開く。
そして『YUKI』としての
ボクへと本格的に変わっていく。
人が求める理想のボクの姿。
有香と共にステージへと向かうのは、
人の世が求めるYUKI。
「YUKIさん、お願いします。
後、30秒で鼓が入ります」
スタッフに促されるままに
ボクはステージへと向かう。
衣装の上から羽衣を纏う。
暗闇の中、鼓の音色が
会場内に静かに響き渡る。
場内から歓声が沸きあがる。
ボクは羽衣で顔を隠して
静かにステージへと歩いていく。
琵琶が鳴り響く。
羽衣を被ったままに
愛器のお琴の前へと向かい
いつものように立奏する。
……咲……
彼女が来ているだけで
いつもと同じステージが
色鮮やかに見える。