ボクの耳に届く
生ある鼓動。


人の住む証ともいえる文明の胎動。



咲の記憶を消した日から、
お互い、通じ合うことないままに
二週間の時間が過ぎた。


ボクは、YUKIとしてツアーも始まって
慌ただしい時間が続いていた。


遠征から帰宅して、
ボクの守るべき地元で行われる公演日当日を迎えた。


その日も咲を桜の回廊越しに見送って、
人の世(まち)を暫く見下ろした後……、
姿を仮初に変えて
ボクは人の世の仕事へと影に紛れながら出かけた。




マネージャーとの待ち合わせ場所。




ボクは人としての気質を
強く練り合わせて人に捕えられる姿で
ゆっくりと歩く。





プラチナの髪を微かに揺らし、
朱金の瞳を少し伏せ目がちにしてゆっくりと歩く。



街中を通るたびに、ボクに視線が集中する。



振り返って行く。

立ち止まっていく。



それでも、ボクに声をかけようと
するものはいないしボクの動きを
邪魔しようするものはいない。




マスミコの記者たちも
ボクを追い続けるが、ボクをどれほどに
追いつめてもいざと言うときには
動くことが出来ずスクープにはなりえない。




ふと歩く先には、咲と同じくらいの少女が二人。


友達同士なのかボクを見ながら、
何かを話しあってる。

ボクの鬼の目に映るのは、
二人を取り巻く気の色が闇に捕らわれていく。


ふいに二人の少女の一人が、友達を突き飛ばし、
もう一人の少女はボクの方へと倒れ掛かる。


反射的にボクは、その少女の背後にまわって
受け止めやすいように抱きとめた。



抱きとめた瞬間、ふわりと地面をけって
舞い上がり静かにお姫様抱きにして地面へと戻る。



「祐美【ゆみ】」


裕美と呼ばれた少女を突き飛ばした友達は、
何事もなかったように裕美のもとへと駆け寄ってくる。




「……裕美ちゃん……。

 もう大丈夫だよ。

 これからは気を付けて」



優しい声色で
柔らかく話しかける。



裕美はその知人にされるがままに
慌てて……ボクの腕から……引っ張られる。



「YUKIさん。
 裕美を助けて頂いて有難うございます。

 今日のLIVE、裕美と二人で行きます。

 頑張ってくださいね」



朱金の瞳のみ一瞬……鬼のものへと
変貌させる。