そして……その夜も……
ボクはいつもと同じように仕事をした。
いつもの日常だけど
いつもの繰り返しではない。
咲の記憶を消した自分自身の罪悪感と、
寂しさから逃げるために集中し続けた仕事。
夜通し仕事をクタクタになるまで続け、
廃墟に帰り着いて、鬼と勤めを果たすと
倒れるように仮眠した。
朝……、咲の気配で目覚める。
咲が学校に向かう時間。
桜の幹越しに、咲が触れるのを感じた。
昨夜、契り交わしてしまった血が
……共鳴しあうように拍動をうつ。
……逢いたい……
咲に逢いたい。
咲に逢いたいと望むボク。
それを拒むボク。
二つの心が対立しあう。
血の拍動をどうすること出来ず
持て余し続けるボク。
咲の気配が遠くなっていく。
拍動はやがて緩やかなものへと
変化を遂げる。
ボクは……君のことが……。
鬼の姿のまま、桜の回廊を渡って
人の世界へと降り立つ。
桜の木に座り、人の世(まち)を見下ろす。