- 回想 -




咲の記憶を消した後、
いつものようにボクは、
ボクの世界へと帰る。


光の射さないモノクロの世界。


植物にすら、
命の宿らない世界。



足元に生気なく
倒れこむ枯れ木たち。


その枯れ木たちを
踏みしめるたびに最期の悲鳴のように
ポキポキと寂しげな音が世界に響き渡る。


廃屋へと帰りながら、
何度も自分に言い聞かせる。



『これが正しい選択』



咲は人だよ。


ボクがこれ以上、関わってはいけない。

ボク自身のその選択に過ちなどないはず。





……なのに……。


どうして、こんなにも心が重苦しいの?



少女を思い浮かべながら
今も咲の感触が甦る唇を指先で辿る。



温もりをくれた少女は、
明日には昨夜のボクを覚えていない。




大丈夫……。


ボクは思い出を抱いていればいい





彼女は人。

現世の存在。



鬼には……成りえない。





どれほどに人に焦がれても
人と鬼は交わることが出来ない
全て……仮初……。