☆
- 回想 -
咲の記憶を消した後、
いつものようにボクは、
ボクの世界へと帰る。
光の射さないモノクロの世界。
植物にすら、
命の宿らない世界。
足元に生気なく
倒れこむ枯れ木たち。
その枯れ木たちを
踏みしめるたびに最期の悲鳴のように
ポキポキと寂しげな音が世界に響き渡る。
廃屋へと帰りながら、
何度も自分に言い聞かせる。
『これが正しい選択』
咲は人だよ。
ボクがこれ以上、関わってはいけない。
ボク自身のその選択に過ちなどないはず。
……なのに……。
どうして、こんなにも心が重苦しいの?
少女を思い浮かべながら
今も咲の感触が甦る唇を指先で辿る。
温もりをくれた少女は、
明日には昨夜のボクを覚えていない。
大丈夫……。
ボクは思い出を抱いていればいい
彼女は人。
現世の存在。
鬼には……成りえない。
どれほどに人に焦がれても
人と鬼は交わることが出来ない
全て……仮初……。