こういう時、
人の世は……手を交し合う……。
確か……そうだったね……。
『こんばんは。
咲さん、YUKIです。
今日は楽しんで行って』
ボクは、ゆっくりと咲の前に
手を差し出した。
暫くボクの手を握り返そうとしなかった
彼女は……数秒後に慌てて握り返してくる。
『譲原咲です』
彼女の温もりが指先から伝わる。
血の拍動が少しずつ激しくなる。
……血が共鳴していく……
『すいません。
私、塚本神社の孫なんですけど
YUKIさんは……
そちらに行かれたことはありますか?』
彼女の言葉は続いていた。
……写真集……。
確かにあの桜は、塚本神社の神木を
モデルに生み出した。
『ないよ』
『そうですかっ。
YUKIさんの写真集に写る桜の木が
うちのご神木のような気がして……。
気のせいですか……。
変なこと聞いてすいません』
さすがだね。
君の記憶はボクが消してしまったのに、
君はこうしてボクに辿り着いてしまうんだね。