和鬼(国王)が任務遂行を放棄したと
判断したその時、
和鬼に審判を下せるモノはボクだけ。



正体を悟られてはならぬ掟を破り、
その物から関わりし
全ての記憶の消すことが出来なかったのは
桜鬼神としての務めを怠ったボクの過ち。



心に宿る二つの鬼は、
互いの最愛を想い、互いの任を放棄した。



その故に、その位に立つものとしての
裁きの時間が永の年月、じんわりじんわりと
互いを戒めつづけていた。



二つの罪を抱く
この体をそれぞれの想い。



その結末の時が、
近づいてきたのだと水龍は教えてくれた。




後僅かで、
ボクの時間が終わると言うなら
その中で、二つのボクを
受け止めて許すことが出来れば。





『咲。

泣かないで。
今、ボクが駆けていくから』




咲の声を手掛かりに、
気配を辿って影を渡っていく。


ボクの体ギリギリに纏う、
水龍の気はボクの負担を軽くさせてくれる。


ボクの体を蝕んでいく、
黒い影も、今は動きをとめて
動くことはない。



咲の呼び掛けが途切れる。




それと同時に姿を見せた現場。




辿り着いた部屋には、
真っ黒な霧が渦巻いている。


その隣、高笑いをして微笑む依子さん。


依子さんの前、風鬼の腕の中で、
ぐったりと力なく横たわる咲を見つけた。




「風鬼、何をしている?
 咲を放せ」



腰に下げた鬼狩の剣に、
ゆっくりと手を伸ばして握りしめるボク。




すると風鬼の腕の中から、
ゆっくりと咲がフラリ立ち上がる。




『アナタだけが私を必要としてくれた。

 私の前に居るのはアナタの敵。

 アナタの敵は、私の敵……』





無機質に呟く咲が、
風鬼に手渡された剣を握りしめて
ボクに向かって、振り下ろしていく。